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製本・後加工 2022

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製本業界の現状と課題、明るい未来とは

全日本製本工業組合連合会 田中 眞文 会長 インタビュー

印刷ジャーナル 2022年3月5日号掲載

「魅力」ある製本業界へ

 コロナ禍による印刷業界の厳しい状況は、そのまま製本・後加工業界に影響を与える。製本加工賃は数十年前から変わらないなど、厳しい状況の企業も多いが、製本・後加工業には、フィニッシングの専門家として、印刷物の付加価値を高めるための豊富な知識とノウハウがあり、今後も印刷業界の最大のパートナーであり続けることは間違いない。また、昨今は製本業界が紙製品を開発して、ECサイトなどでBtoCの展開を図るケースも珍しくなくなってきた。長引くコロナ禍の中、製本業界は引き続き印刷業界を最大の取引先としながらも、出版社やその他の業界への市場創出に努力している。そこで今回、全日本製本工業組合連合会の田中眞文会長にコロナ禍における製本業界の現状と課題、そして製本業界の明るい未来に向けた展望などについて話を聞いた。

田中 会長


書籍は比較的堅調、雑誌は底を打たない厳しさ


 2021年末現在で全製工連の組合員数は650社を下回る推移となっており、廃業を中心に4%強の減少が続いている。

 品目別に見ると、雑誌は底を打たず厳しい。報道されているように、昨年はコミックスを含む月刊誌が発行高4.5%減、週刊誌は同9.7%減、2020年はコロナ禍で定期誌の刊行延期や中止が相次いだが、2021年はそれは無かったものの、部数減による紙媒体からWebへの移行や休廃刊が止まらない。コミックスは2020年夏〜昨年冬にかけて大ヒットした「鬼滅の刃」が一段落し、それに代わっていくつかのタイトルがヒットしたが、トータルでは微減した。

 一方、書籍はすべてのジャンルが良いわけではないが比較的堅調で、紙での発刊分が15年ぶりに2%程度の増加。牽引しているのが、教科書・学参・語学・資格書など勉強の本と絵本を含む児童書と文芸書。これを見ると、いかに一般社会人が本を買わなくなってきているのかが分かる。出版市場の28%が電子となり、存亡の危機に立たされている仲間が多い。

 加えて、労務費だけでなく物流費や材料費、加工費の上昇圧力が大きく、先日も出版社の団体に対して印刷工業会と連名で現行の窮状への理解を求める文書を提出したところである。また、大手が商社と組んで検討しているICタグ装着によるDX化の推進など、周辺環境も目まぐるしく変化しており、業界ぐるみの対応を検討していかなければならない課題も増えてきている。


強弱分かれる商印製本


 また、商業印刷製本はコロナ禍も3年目となり、初年度より状況は改善している側面もある。足元は繁忙期に向けて動きは良くなっており、ボリューム感も戻っているものもある。一方、商印内でも強弱が分かれてしまっており、大ロット案件が増加し、小ロット案件はむしろ消失している傾向が見られる。オンライン開催の影響を受けるイベント関連、観光、飲食はより厳しく減少。通販関係のマニュアルやチラシなど、特需的な動きは継続している。


紙製品、文具関係は苦戦


 紙製品関連はコロナ禍の長期化、オンライン開催の浸透により、動きも鈍く種類および部数の減少傾向が続いている。イベントの開催がないため、企画自体が消滅、動かない影響が大きい。今シーズンはカレンダーが終わり、新学期に向けて学参関係に取り組んでいる。

 文具関係は、春に向けた新製品が動いているが、色や柄のバリエーションが減ったり、再販売が発生しなかったり影響が出ている。ミシン掛けノートなど、希少な技術分野は忙しいようだ。


別製、販売用ともに手帳は10%減


 手帳は大別して別製手帳(年玉手帳)と販売用手帳がある。別製手帳は新型コロナ感染症のため、自宅におけるテレワークの増加により、手帳の使用が減少したり、SDGsの観点から手帳の製作数を減らすなどの諸要因により10%ほど減少すると考えている。

 販売用手帳は、発売元がコロナ禍の業績を考えたり、返本率を低下させるために商品別の生産数は10%ほど減少すると考えている。キャンペーン・イベントなどが対面からネットなどを通じた非対面型が中心になり売上が減少している。

 そのような中、先日の「じゃぱにうむ2022」での発表であったように、田中手帳さんの手帳製本技術を応用した新しい取り組みは特出すべきと考える。


フィニッシングの専門家ならではの提案が可能


 現在繁忙期を迎え、東京をはじめとした大都市圏では、3月までは中綴じ、無線綴じともにパンクしており、大変忙しい状況になっている。発注側の印刷会社は仕事を頼める製本会社を探しているが、なかなか見つからずに困っている。しかしながら、印刷会社が繁忙期に合わせた製本設備をしても仕事量の増減により設備の駆動率の低下につながり、生産性が落ちる。また、オペレーターの育成などの問題もある。我々、製本専業者がしっかりと生き残り、印刷業界を支えていかなくてはならない。

 印刷会社も、このコロナ禍のデジタルシフトやイベントなどの中止により厳しい経営状況が続いていると思うが、我々製本専業者は、フィニッシングの専門家としての提案をさせていただくので、コロナ後を見据えた新しい仕事の受注につなげていただきたい。また、サプライチェーンの一員として、企画段階から相談していただければ、フィニッシングの専門家ならではの提案ができるので、他社との差別化が可能になり、収益につながると思う。そのような協業の中で、共々に生き残っていくことが印刷業界の要望に叶うことだと思う。

 その生き残りのために、今までもあらゆる経営努力をしてきたが、約30年近く据え置かれた安い製本単価の中で、このところの急激なインフレが起こり、製本資材や人件費等の値上がりが進み、各社の経営努力だけでは限界に来ており、コロナ禍依頼廃業がかなり進んできたのも事実である。


2022年は商印関係の増加に期待


 先ほども申し上げたとおり、足元の2月、3月は超繁忙状態だが、原因は製本専業者の廃業が進んできたところに多少の仕事量の回復と、繁忙期が重なったことだと思われるので、4月になればかなり落ちついてくると思っている。また、一方でオミクロン株による「第6波」も収束し、経済活動が復活して商印関係を中心に仕事量が増加すると考えている。廃業が進んでいる製本業界のキャパシティーが減少している中で、生き残った会社は、一社あたりの仕事量が増えることが予想されるので、取りこぼしなく受注につなげていきたい。


製本加工賃の引き上げに努力


 課題の第一は、製本単価だと思う。昨年来の資源原材料価格の上昇が継続する中で、文書「製本加工物ご発注に対するお願い」により、組合員へ製本価格見直しのお話をするきっかけとして頂くべくご案内している。いまだ製本加工価格に関しては、据え置きのままであることもある。

 取引先である印刷会社も大変苦しい状況下であるとは思うが、製本会社自身が、サプライチェーンとして共に存続していくために経営の現況をきちんとお伝えし、エビデンスに基づいて、製本工程、製本料金や配本運賃を精査し、丁寧に説明させていただくことで、製本価格の見直しが必要な旨の理解を得られるケースも増えている。あきらめずに継続するよう、引き続き、皆さまに働きかけていく。

 また、より根源的な課題としては、事業承継、後継育成が挙げられる。組合では、継続的な取り組みとして、行政施策の支援も受けながら、オンラインセミナーや講習動画のアーカイブ、個別課題の専門家への取次などを実施している。


小規模でも協業で新商品、新サービスが可能


 「製本産業ビジョン2025」の啓蒙を進めていきたい中、コロナ禍で思うように進んでいないのも事実だが、まず各社が自社の強みの棚卸を行い、強みをさらに先鋭化し、差別化を進めていくことで、新しい提案ができるようになると考えている。コロナ後の世の中で、何がどんなところで必要なのか、しっかりニーズを捉え、ビジネスモデルを考えてチャレンジして欲しい。そのためには印刷業界以外の様々な人々との交流を行い、困りごとをヒアリングしていく中で見つかってくると思う。何にしても問われるのは各社の実行力だと考えている。

 印刷産業以外から仕事を作るか、新たな仕事を創り出すには、ネットが販売方法として有効な手段の1つである。ネットについては、できるところとできないところもあると思うが、たまに「うちは特徴がない製本会社だから...」という会社があるが、各製本会社には必ず何かしらの特長があるはずだ。それを活用した新しい商品やサービス展開を図ってもらいたい。

 また、これを1社でやるのはハードルが高いので、仲間と一緒に協業して複数社で新しいビジネスモデルを創ることで、そのハードルを下げることができる。page2022では、東京都製本工業組合の二世連合会が協同出展していたが、非常に面白い試みだと思う。そのような取り組みの中で、新しいビジネスモデル見つかると思う。

 また、製本、印刷以外の業種と交流を活発にすることも大切である。コロナで時代が激変し、世の中のニーズも変わっている。コロナ禍でどんな変化があったのか、世の中の人は今、何に困っているのか、何が不足しているのかなど、しっかりとヒアリングすることで、新しいビジネスモデルを思いつくことができる。思いついたら、それを仲間と協力しながら実行することが大切である。


製本・紙加工技術でオリジナル製品開発に注力


 2020年度に刊行した「製本産業ビジョン2025」においても複数の事例を紹介しているが、近接市場に拘れば、製本・紙加工の技術、紙製品のノウハウを活かして新製品、新サービスに取り組む、自社オリジナル製品を開発するということになる。

 デジタル化への動きの中で、親和性の高い関連商品の遡及により、需要が高まっているものも多い。例えばリモート会議環境に適した手帳やメモ等や、堅調な通販商材の説明書やデジタル機器のマニュアルであったり、変化に対応してさらに需要を伸ばしている動向を見極めることが肝要と考える。

 コロナ禍の巣ごもり需要やデジタル市場周辺は活況であったことが示す通り、必要なのは、ユーザーとの接点だと思う。インターフェースを重視したWEB受注、スマホ受注、SNS活用発信、アプリ開発などデジタル技術、デジタルメディアを活用することで、むしろ、従来よりはるかに低コスト・低リスクでBtoC市場にも取り組むことができる側面もある。地域行政の産業振興政策の活用や、現場社員、若手社員や家族の日頃の声を活かすことも継続していく上で肝要である。ユーザビリティの向上は差別化要因にもなり得る。

 製本事業以外の収入を確保するために、空いた土地を利用して倉庫業を営んだり、空いた工場でスタジオとして活用できる場所を提供することに取り組まれているケースもある。

 SDGsのうち、環境面では、日印産連グリーンプリンティング制度が相性良く取り組みやすいと考えるが、2021年度よりGP表彰にも製本部門が拡充されたことは意義あることであり、業界内でも、より取り組みへの認知が高まると考えている。

 また、印刷業界では「印刷DX」に取り組まれているが、フィニッシングがなければ、印刷物は完成しない。製本業界としても全印工連のDXへの取り組みに協力していきたいと考えている。今後しっかりとコラボしていきたい。


匠の技の伝承で、若者に夢を与える製本業界へ


 製本業界を魅力ある業界にし、若者に夢を与える業界にしていくために、各社の経営が成り立つことがまず前提だが、製本業はモノづくりが原点であり、各社が創造の喜びを広げていく仕事が魅力につながると思う。また廃業が進む中、匠の技の伝承は重要だと考える。貴重な技術やノウハウが失われないよう、記録も含めてしっかりと残していかなければならない。製本組合は、後継者育成・技術者育成にも長年注力しており、製本高等技術専門校を運営している。興味があれば、ぜひ門戸を叩いて欲しい。