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トップ > 特集 > [シリーズ]経営を変えるプレート技術 2021:スマートグラフィックス|SUPERIA ZD-III 導入事例

印刷ビジネスにおける新たな生産プロセスへのアプローチとして、プロセスフリープレートをはじめとした環境配慮型CTPが話題になっている。現像工程を必要としない無処理CTPは、現像液の削減や節水、省エネルギーといった環境対応項目はもちろんのこと、自動現像機のメンテナンス作業負担削減や省資源、液管理、廃液処理コスト削減など、経済的なメリットも大きい。とくに、これまでボトルネックとなっていた視認性や生産性の改善をはじめ、ロングラン印刷適性、UV印刷適性などが付加され、輪転機での使用事例も見られる中、今後国内でも確実に導入が進んでいくと予想される。そこで昨年に引き続き、今年も環境対応型CTPの現状と可能性に迫るべく、無処理プレート・ケミカルレスプレートをクローズアップし、「経営を変えるプレート技術」と題してシリーズで特集する。

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スマートグラフィックス、最先端工場でスマート化の推進力に

[SUPERIA ZD-III 導入事例]「スキルレス・省スペース」で一気に合理化

 印刷受託製造に特化した業界屈指のプロフェッショナル集団として広く知られる(株)ウエマツ。そのグループ企業であり、ウエマツが誇る圧倒的な生産力を最先端のシステムと技術で支える(株)スマートグラフィックス(本社/東京都豊島区南長崎3-34-13、福田浩志社長)が2019年10月、新工場(埼玉県戸田市)の稼働を機に、富士フイルムの完全無処理CTPプレート「SUPERIA ZD-II」を導入。現在、「SUPERIA ZD-III」を試用しながら、新性能が現場にもたらす効果の検証を進めている。新工場にはどんな役割があり、なぜいま無処理化が必要で、なぜSUPERIAが選ばれたのか。導入の経緯や具体的なメリットについて、取締役製造本部長・清水利博氏、取締役企画室室長・福田佳祐氏に伺った。

自現機が不要になったことで、CTP設置の自由度が高まった


現像廃液削減に加え、レイアウトの工夫で効率化


福田 室長
​ 同社は2016年7月にウエマツグループへ編入後、徹底した生産設備の最適化が進められ、2019年10月には板橋(東京)と川口(埼玉)に分散していた工場を集約すべく、ウエマツ戸田工場から徒歩5分の場所に先進機器をフル装備した新工場を竣工。翌11月、「再生ステージから最終ステージへ」のスローガンのもと、「スマートグラフィックス」へと社名を変更した。同社が目指すのはその名の通り、生産工程のスマートファクトリー化だ。当然、新規導入するシステムも5年、10年先を見据えて厳選されたもの。主戦力である印刷機は、4台のうち3台が新台(世界最高速の両面機2台+ウエマツグループ初のLED-UV機1台)。2階のUV印刷機のすぐ横にCTPが設置され、プレートにはUVインキ対応の「SUPERIA ZD-II」が採用された。「スマート化を考えるうえで、無処理化はごく自然な流れだった」と福田取締役が導入の経緯を説明する。

​ 「デジタルの時代だから、現像液とか廃液といったものは極力なくしていかなければならない。無処理CTPとUV印刷の組み合わせであれば現像液もパウダーも使わないので印刷機回りをよりクリーンに保てるし、自現機が不要であるためCTPの設置の自由度も高くなる。効率化や自動化、スキルレス化を進めていくうえで、無処理プレートが少なからず貢献してくれるという思いがあった」(福田取締役)

 2階フロアでCTPセッターとUV機が至近距離で稼働しているのも、まさに「設置の自由度」を活かしたレイアウトだ。

 「CTPでプレートを出力したらそのまま隣の印刷機にセットできるので、タイムロスもなくオペレータの動きも最小限で済む。自現機が要らない無処理CTPならではのメリットを活かし、新たな試みとしてあえて隣り合わせに配置してみたところ、期待通りの効率化が図れた」(清水取締役)


刷版業務のスキルレス化を活かし、拠点間でリモート出力


清水 本部長
​ 生産性向上・納期短縮につながる多層的な「効率化」は、ウエマツグループ全体で追求しているテーマ。スマートグラフィックスの新工場では、すでに一歩先を見据え、出力されたプレートの自動搬送など、次なる自動化・効率化の準備も進めている。そのポイントについて、福田取締役は「ウエマツ本社と技術力を共有し、連携を深めることが重要」と強調する。

 「もともと当社の新工場建設には、東京と埼玉に分散していた工場を一つに集約しようということと、ウエマツとの間で技術やシステムを共有化していくという、2つの大きな目的があった。ウエマツの戸田工場から徒歩5分圏内の土地を選んだのも、まずは物理的な往来の便利さで交流を深められるという理由から。ネットワークを活用し、プリプレス機能を戸田工場に分担してもらえないかと考えた。新工場にはCTPのみを設置し、プリプレスのオペレータは置かない、という形である」(福田取締役)

 その計画は、無処理化によって着実に進展しているという。

 「新工場の稼働当初は、距離の近さを活かし、CTP出力について教えに来てもらうことも多少はあったが、いまでは戸田工場のプリプレス担当者が刷版業務で新工場に出向くことはなく、完全にリモート出力のみ。印刷オペレータだけで刷版作業をこなすという新しい体制が確立した。無処理プレートの採用によってプロセサーの管理の手間がなくなったことが、人材活用のうえでかなり大きなメリットになっている」(福田取締役)

完全無処理CTP+LED-UV機の採用で、クリーンな作業環境を実現


ZD-II選択の決め手は「安心して使える信頼性」


 確かに「人材活用」は、どの業界、どの企業にとっても重要課題のひとつだ。そんな時代背景も踏まえ福田取締役が無処理CTPの最大のメリットと感じているのは、まさに「現像レスによるスキルレス化」だという。

 「現像液の処理などにはある程度の経験が必要で、どうしても独立した業務になってしまう。それがなくなることは、若い人でも他部署の人でも、短期間で刷版を取り扱えるようになるということ。より自在な人員配置が可能になる。将来的に工場のスマート化を目指していくうえで、スキルレスというのは、あらゆるシステムにおいて不可欠な要素になっていく」(福田取締役)

 同社の描く未来構想にぴたりと嵌まった無処理プレートだが、では富士フイルムのSUPERIA ZD-IIを選んだ決め手は何だったのだろうか。清水取締役は真っ先に「安定性」を挙げた。

 「各メーカーの無処理プレートについて、網点品質や耐刷性、扱いやすさなど、さまざまな点で比較させてもらったが、決め手になったのはZD-IIの総合的な安定性だった。有処理・無処理に関わらず、最終的なプレート性能の判断基準は、やはり『安心して使える信頼性』があるかどうか」(清水取締役)

 ウエマツのクライアントはほとんどが中堅・大手の印刷会社であり、印刷に関してプロ中のプロである。品質や納期についても「無処理プレートだから」という言い訳は通用しない。ウエマツグループの先鋒に立つ新工場として、プレート選びの絶対条件に「安定性・信頼性」を掲げるのは当然のことだ。こうして選択されたZD-IIが実戦の中で使われ始めて約1年半。これから先、同グループにおける無処理化の展開を福田取締役はどう予想しているのか。

 「ウエマツの戸田工場は環境優良工場を受賞しているので、環境配慮という点でも確実に無処理化が進んでいくだろう。環境性が高く、省スペースでスキルレスというメリットもあるから、経営的視点でも非常に選びやすい。わざわざ自現機を設置したいという会社はないだろう。新工場も戸田工場も、埼玉とは言えかなり東京に近いので、比較的スペースコストが高く、ウエマツグループでは省資源や省エネだけでなく『省スペース』も常に大きなテーマにしている。こうしたニーズに応えられる無処理プレートが、これからCTPの主流になっていくのは間違いない」(福田取締役)


新製品「SUPERIA ZD-III」の評価と今後の展開


 このようにSUPERIA ZD-IIにより効率化を実現した同社は、富士フイルムより新たにラインナップされたSUPERIA ZD-IIIの市場評価も行っている。福田取締役はその経緯を次のように述べた。

 「ZD-IIを2年近く使って、期待通りの安定性・信頼性を備えていることがわかった。具体的に、作業性や対刷性など、無処理プレートだということを意識せずに使えるレベルに達している。今回、ほとんど有処理と同じように扱える無処理プレートが完成したと富士フイルムから提案を受け、大いに期待しながらテストすることにした」

 実際にZD-IIIを評価した結果について福田取締役は「まず驚いたのは、視認性が飛躍的に良くなったこと。これまでZD-IIでも作業上とくに問題はなかったが、ZD-IIIはこれまで以上に見やすくなり、現場の安心感も違った。刷り出しについても、もともと良かったZD-IIと同等以上だという報告が現場から上がってきている。また耐刷性については、テストの結果、大ロットの印刷でも安定した網点品質がしっかり維持され、まったく問題ないという結果が出た」と話す。

 最後に同社の今後の展開について福田取締役は、「すでに無処理プレートでスキルレス、省スペースによる期待以上の効果がでているが、今後はウエマツグループ各社にZD-IIIの採用を拡げていこうと考えている。効率化も大事だが、環境対応も全社共通の課題。ウエマツグループは業界内でもとくに環境に配慮した生産を徹底している企業だと自負しているが、今後はカーボンニュートラルに向けてさらなる努力が必要となる。そうした展開の中で、ZD-IIIは当社にとってますます大きな武器になっていくのは間違いない」と語る。