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 ワイドフォーマットプリンタの世界市場規模は2017年段階で83億7,000万ドル。(株)グローバルインフォメーションの調査では、大判プリンター市場は2020年の93億米ドルから2025年には112億米ドルに達し、CAGR3.8%で成長すると予測されている。この市場の成長を後押しする主な要因には、テキスタイル、広告、パッケージング産業における大判印刷の需要の増加、屋外広告、CAD、技術印刷用途におけるUV硬化型インクの採用、商業印刷におけるデジタル文書作成の需要などがあり、家庭用家具や装飾品と車両のラップ等の大判プリンターの需要、工場内作業のみならず、様々な価格やプリンターの種類など、その多用性は大判プリンター市場の大きな成長の機会となっている。そんな中、オフセット印刷を主体としてきた印刷会社でも大判プリントの分野に新たな事業領域を見い出すケースも見られ、オフセット印刷の延長線上にある販促関連ビジネス、あるいは新たにサインディスプレイ事業に乗り出すなど、その動向が注目されている。そこで今回、弊紙では「ラージフォーマットビジネス」にフォーカスして特集した。

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サインズドットコム、環境素材・板物対応を強化

[JETI MIRA / ANAPURNA導入事例]希少性と独自性で全国展開も視野に

印刷ジャーナル 2020年7月5日号掲載

 「街の景観創りを応援します」─広告・看板資機材の卸売を手掛ける(株)サインズドットコム(本社/大阪市淀川区三津屋南2-20-40、吉田司社長)は昨年12月、大判インクジェット出力サービスの事業領域を拡張するための戦略ツールとして、アグフアのワイドフォーマットUVインクジェットプリンタ「JETI MIRA 2732 HS LED」と「ANAPURNA RTR3200i LED」の2台を札幌営業所に同時導入。「環境素材」と「板物」への対応を強化するとともに、その希少性と独自性で全国展開も視野に入れている。

JETI MIRA
ANAPURNA

北海道限定の大判インクジェット出力サービス

 同社の創業は平成12年。当初は看板の製作・施工業者としてスタートした同社だが、平成15年に広告・看板資機材の販売会社から営業権を譲り受け、福知山営業所と大津営業所を開設。これを機に創業から3年目にして看板製作・施工事業から資機材販売事業へと一気に舵を切り、その業態変革を遂行する中で、その後もM&Aによって平成16年には仙台営業所、平成23年には泉大津営業所を次々と開設し、広告・看板資機材の卸売で飛躍的な成長を遂げている。

 そして、同社最大のターニングポイントとなったのが、平成24年に開設した札幌営業所における「資機材販売+印刷サービス」というビジネスモデルだ。北海道では広告・看板資機材の販売会社が印刷サービスまでを手掛けるという事業形態が根付いていたことから、同社札幌営業所でも、開設と同時に溶剤系、水性系のプリンタとラミネートやカッティングなどの付帯設備を導入し、大判インクジェットプリンタによる出力サービスに着手した。ただ、同サービスの展開は、送料や納期を考慮し、北海道市場限定でスタートし、他の営業所における印刷需要は、現在のところ資機材販売の顧客ユーザーに外注する形をとっている。

 「材料販売に比べて印刷事業は利益率が高い」と語る吉田社長。「大判インクジェット出力」という新事業でアグレッシブな展開をはかる札幌営業所に他営業所も感化され、その後1年半で会社全体の売上は倍増したという。資機材販売の対象顧客の下請け的機能に加え、直接ルートでの受注実績を伸ばす中で、ワイドフォーマットプリントの潜在市場を確信した吉田社長は、次の一手に出た。それが、アグフアのハイエンドフラットベッドUVインクジェットプリンタ「JETI MIRA 2732 HS LED」と多機能ワイドフォーマットUVインクジェットプリンタ「ANAPURNA RTR3200i LED」の2台同時導入である。

吉田 社長

狙いは「ファブリック素材」と「板物」への対応

 新たな出力デバイスへの投資の背景には、既設機の老朽化という現実的な理由もあったが、本当に吉田社長が求めたのは、「大判インクジェット出力サービスの事業領域を拡張するためのツール」だった。

 「海外の展示会にもよく足を運ぶが、そこで市場の変化として、ファブリックなどのエコ素材への転換とUVプリンタの台頭を感じた。その変化と自社の事業を照らし合わせた結果、『UV機』、なおかつ『スーパーワイドフォーマット』という結論に至った」(吉田社長)

 早速、機種選択に乗り出した同社。そこでまず選択ポイントに定めたのが「ファブリック素材」と「板物」への対応である。

 現在、ディスプレイの多くがFFシートやターポリンを素材にしたものだが、吉田社長が言うように、海外ではファブリック電飾看板のようなものが主流になりつつある。これは、合成繊維の布地に印刷し、軽量アルミフレームにテンションをかけて裏からLED照明を照らして掲示するサインシステムで、従来のサインと比べて軽量かつコンパクトに折りたたむことができ、施工もユーザー自ら行うことができる。「今後、日本でも主流になる。そうなると幅広のUV機が必要になると考えた」(吉田社長)

 一方、板物については、溶剤系プリンタで塩ビフィルムにプリントし、ラミネート加工、さらにパネルにはめ込むというのがこれまでの工程。この工数は「コスト」に跳ね返る。また「脱プラ」という観点からもUVによるダイレクト印刷が望ましい。そこで同社では、ロール/シートのハイブリッド仕様機に照準を定めた。そこで最有力候補として浮上したのが「JETI MIRA」である。

 ただ、そこには2つの課題があった。JETI MIRAのロールユニットの印刷可能幅が2.05mまでであった点と、もうひとつはハイブリッド仕様であるためロールユニットの印刷時は板物に同時に印刷はできないという点である。「ロールで3.2m幅を印刷する」、そして「ロール/シートの両方を効率的に運用し、最大のパフォーマンスを継続維持する」。これら条件をクリアする新たな手段としてアグフアから提案されたのがJETI MIRAとANAPURNAの併用だった。「かなり思い切った決断だった」と振り返る吉田社長だが、その裏には、それだけの投資に見合う市場が見えていたということだろう。昨年12月、両機は肩を並べる形で札幌営業所に設置された。

生産性と品質をバランス良く両立

 「圧倒的な生産性」に加え、「新たなアプリケーションへの開発意欲を掻き立てるプリンタ」として高い評価を得るJETI MIRA。その代表的な特殊機能が「白インクの厚盛り」と「ニスを使った3Dレンズ印刷」である。もちろんサインズドットコムでも、この「付加価値創造機能」は機種選択を左右する大きな要素となった。

 「白インクの厚盛り」は、言うまでもなく、実際のデザインの質感や凹凸感をリアルに表現できる。また、JETI MIRAによる3Dレンズ印刷とは、専用のソフトウェアを使い、視覚効果によって立体的な表現を実現するもの。裏に6色+白を印刷した後、表にクリアニスで小さな球状のレンズを印字することで3D効果を表現できる。吉田社長は、「『従来の仕事+α』の付加価値と独自性にも大きな魅力を感じた。新たなアプリケーションの可能性に投資する価値があると判断した」と振り返る。

3D印刷サンプル

厚盛り印刷サンプル

 一方、運用を通じた両機の評価について吉田社長は、「生産性と品質をバランス良く両立したプリンタ」と表現する。「品質はクライアントからも高く評価されている。グラフィックアーツの世界でアグフアが選ばれる理由が分かった」(吉田社長)

 JETI MIRAは、メディア厚50mmまで、解像度1,200dpi、6色(C・M・Y・K・LC・LM)+白+クリアニスの仕様。基本的に板物へのダイレクト印刷を担う。一方、ANAPURNAは、メディア厚45mmまで、解像度1,440dpi、6色(C・M・Y・K・LC・LM)の仕様。主に大型の懸垂幕やターポリン、ファブリックへの印刷を担う。なお、紙素材への印刷は、従来の溶剤系や水性系のプリンタで対応。ラミネート加工がある場合も、UVではインクを盛っている分、エッジにエアーが入ることから溶剤系、水性系プリンタの出番となる。

強みを活かす営業ノウハウを蓄積

 今後、「SDGs」を意識した経営に軸足を置いていくという吉田社長。環境素材への対応とダイレクト印刷による脱・塩ビという観点からもUVプリンタの活用を推進していく考えだ。

 また、両プリンタの品質と「厚盛り」「3Dレンズ印刷」といった特殊印刷機能を武器に、北海道に限定していた大判インクジェット出力サービスを全国展開していくことも視野に入れている。

 「昨今のあらゆる市場で、安いものと付加価値があるものの二分化が見られ、中途半端なものは受け入れられない世の中になっている。品質を含めた両プリンタの付加価値は『高価でも受け入れられるもの』になる。また、インクジェット出力サービスは、これまで資機材販売の従来顧客とバッティングするビジネスだったが、『スーパーフォーマット』という希少性と『付加価値』という独自性をもって、従来顧客の下請け的存在にもなれると考えている」(吉田社長)。

 現在、大判インクジェット出力事業は売上全体の10%程度だが、目先の目標として20%程度まで引き上げたいとする吉田社長。今後、サービスの全国展開で市場が確認できれば、本州のどこかにプリンタを設置することも考えている。「その時に向けて、今はその強みを活かせるような営業ノウハウを蓄積する段階にある」とし、それだけに両プリンタのポテンシャルが生み出す営業的な波及効果にも期待がかかっている。