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日光プロセス、Impala3によるディスプレイ事業で「オフセット品質」追求

「テカリ」なく「滑らかな階調」評価〜swissQprint製UVIJ「Impala3」導入事例

印刷ジャーナル 2019年9月15日号掲載

 「深遠な色の世界を追求し、『良品』を提供する」─(株)日光プロセス(本社/東京都墨田区菊川2-23-12、原田一徳社長)は今年3月、B倍ポスターを中心としたディスプレイ事業の戦略機として、swissQprint製フラットベッドUVインクジェットプリンタ「Impala3」を導入。「テカリ」のない「オフセット印刷同等」の品質を実現したインクジェット出力で、ハイエンドのディスプレイ需要創出に乗り出すとともに、パッケージや建材分野も視野に入れた「脱・印刷」に着手している。
Impala3

「デザイナーのジレンマ」から生まれたインクジェット事業

原田 社長
​ 「色表現に対する徹底したこだわり」で、製版業としてそのブランドイメージを確立してきた日光プロセス。1953年の創業以来、色の世界を追求する上で「良品の提供」を貫いてきた創業者の想いは、その歴史の中で「日光イズム」として脈々と受け継がれ、いまもなおそのDNAは従業員70名1人ひとりの意識の中に息づいている。

 同社がインクジェット事業へ乗り出すにあたり、そのベースとなっているのが「目伸ばし」と呼ばれる製版手法である。これは、製版カメラを用いた透過網点原稿の拡大撮影、いわゆる製版フィルムを指定の倍率まで拡大して製版する技術で、当時、大阪でも数台しかなかった製版カメラを1975年頃に導入し、B倍サイズのフィルムを製版。とくにポスターや看板を得意としていたことから「日光プロセス=ポスターに強い」というイメージが定着したという。

 ここでも技術的な強みとなったのは「調子」、いわゆる「色の階調」である。このことについて原田社長は、「当社の高いレタッチ技術が前提としてあるが、『クライアントの色に対する抽象的な指示を如何に表現できるか』という感性に依存する部分で絶対的な強みを持っている」と語る。このポスターの製版事業を通じてデザイナーによる口コミが広がり、1995年頃からは広告代理店との結びつきも強くなり、交通・店頭ポスターに加え、カタログや雑誌、新聞など、ひとつの商品を売る一連の販促キャンペーンに付随する仕事の依頼が多くなっていった。

 しかし、そこで同社は「デザイナーのジレンマ」に気付く。「B倍ポスターを印刷するとなると、ひとつの版で1,000〜2,000枚という話になる。しかし、例えば5人組アイドルのポスターを作る場合、やはりデザイナーは、1人ずつのビジュアルと5人のビジュアルを用意し、貼る場所などによって選択したい。となると、ひとつのビジュアルにつき20〜30枚でいい。これをインクジェットで出力するわけだが、当時の技術ではデザイナーが納得のいく品質は得られなかった。今でこそ当たり前だが、当時のデザイナーはそんなジレンマを抱えていた」(原田社長)

 そこで同社は、2000年に水性インクジェットプリンタを導入し、RGBデータによる広色域をマット系の用紙に再現することで「日光品質」を保証するインクジェット出力事業に乗り出した。

 「なぜかメーカーは『インクジェット=キレイ』となるとグロス系の紙を好むが、デザイナーはマット系を好む傾向にある。そこで当社は、いち早く高色域をマット系の紙に高品質で出力。これが広く受け入れられた」(原田社長)

技術開発やノウハウを引き出してくれる戦略機

 現在、「脱・印刷」を経営ビジョンに掲げる同社。自社が提供できるサービス、持っている商材を印刷以外の業界に訴求していく中で、その守備範囲に最も近い分野として「ディスプレイ」にターゲットを定めている。その戦略機として今年3月、ハイエンドモデルのswissQprint製2.5×2mフラットベッドUVインクジェットプリンタ「Impala3」を導入した。

橋本 部長
​ この設備投資により同社が目指したのは「オフセット品質」だ。このことについて製造本部 東京製造部の橋本孝志部長は「RGB色域の再現というよりも、オフセット印刷同等のクオリティを追求している。Impala3は、UVインクジェットプリンタ特有のテカリがなく、レベリングされたインクの載り感がオフセット印刷に近似している。また、ヘッドやテーブル上のピンの精度により見当精度が高く、白打ち後、4色印刷した際も白がはみ出るようなことはない。白のインク被膜自体も山状ではなく正確な四角い形状になっている」と評価する。

 一方、原田社長は、「滑らかな階調」を高く評価する。「我々のターゲットは、従来の看板クオリティではなく、その上のハイクオリティなディスプレイの世界だ。バンディングが少なく、滑らかな階調表現は、我々にとって重要なポイントである」。同社のImpala3はスペック上最大となる9色仕様だが、ビビッドな表現に必要なオレンジ、グリーンは搭載しておらず、CMYKのプロセスカラーに加え、ライトシアン、ライトマゼンタ、ライトブラック、ホワイト、バーニッシュ(透明ニス)を搭載。とくにライトブラックの搭載が墨の階調の滑らかさに寄与しており、「ここには製版のノウハウが活かされている」と原田社長は説明する。

 さらに橋本部長は「決定的に違うのが操作性である」と強調する。「出力機なのでデータが完璧に出来ていれば誰が出力しても同じ物が仕上がることが大前提になる。その上で、機械操作が非常にスマートだ。テーブルの高さも低めに設定され、女性にも扱いやすい他、始業時の立ち上がりのセットアップや、ヘッドクリーニングにも手間が掛からない。メンテナンス、セッティングを含めた操作性は抜群に良い」

 また、生産性についても、swissQprint社が推奨するモードより2段階上の高解像度モードに設定しているのにもかかわらず、従来比1.7倍の生産性を実現しているという。

IJによる「オフセット品質」の大判ポスターに強み
 現在、Impala3による仕事は、駅貼りポスターを中心に、塩ビやバックライト系(コルトン)、ウインドウ系の透明フィルムへの出力と広がりを見せている。なかでも電飾看板に用いられるFFシートへの出力では、照射している夜間はキレイでも光を当てていない昼間では絵柄が濃くなってしまうが、同社では、何層かに分けてインクを重ねて印刷することで、昼夜を問わず同じように見える技術を開発するなど、こだわりの技術・ノウハウの蓄積にも余念がない。原田社長は「Impala3は、そんな技術開発やノウハウを引き出してくれるプリンタでもある」と説明する。

 また、Impala3はLED-UV硬化タイプのため、クリアインクの厚盛り「バーニッシュ」において、非常に透明度の高い厚盛りが可能で、もちろん熱を発しないため、紙焼けしないというメリットもあるようだ。

色表現が求められるフィールドへ

 「グラフィック分野にこだわらず、高品質の色表現が求められる分野を攻めていきたい」と語る原田社長。そのひとつが、同社が注力するディスプレイ事業である。「新聞や雑誌と比較して、印刷産業におけるポスター印刷の占める割合はごく僅か。しかしながら、市場の縮小幅も小さく、決してなくなることはない」(原田社長)とし、今後も主力事業として伸ばしていく考えだ。

 また、他分野への展開において原田社長は、共通言語でやり取りできるパッケージ分野と、色にこだわる世界として建材分野を挙げており、今後、グラフィック、ディスプレイ、パッケージ、建材という4つの事業を柱として育てていく考えだ。

 「当社は、『何千部、何万部』ではなく、『何台、何種類』という仕事をターゲットとし、今後もその姿勢は変わらない。そこでメディアは選ばない。高いクオリティの実現に対して、手間、コスト掛け、その分の価値に見合う料金をお支払いいただく。ここが最も当社の力を発揮できるフィールドである。その戦略機としてImpala3は今後、重要な役割を担っていくことになる」(原田社長)