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タナカ
ビッグデータ活用でコダックとタッグ組む

発言力と価格交渉力実証 〜 データ分析に基づく高レスポンスDM

印刷ジャーナル 2015年3月25日号掲載

中平 次長
​ ビジネスフォームの(株)タナカ(本社/茨城県土浦市藤沢3495-1、田中司郎社長)は、主力ビジネスであるダイレクトメール事業において、コダックが展開するビッグデータソリューションを採用。その戦略的出力デバイスとしてデジタル印刷機「ネクスプレス」も導入している。同社のデータ分析に基づくOne to One DMは高いレスポンス率を弾き出し、ビッグデータソリューションのクライアントに対する発言力と価格交渉力を実証している。


BF資産を商印に水平展開

 ビジネスフォーム印刷分野でおよそ40年の歴史と実績を誇るタナカ。より機能的なビジネスフォームを独自企画して提案するとともに、制作・保管・処理・リサイクル化までを自社工場内においてトータルサポートすることで企業価値を高め、その地位を確立してきた。
 そんな同社のターニングポイントとなったのが24年前。ビジネスフォーム市場がピークを迎え、やや減少傾向に転じた頃である。ウインドウズの登場によって、事務処理のプラットフォームもオフコンからパソコンへと移行する中、同社では「電子化」「ペーパーレス化」の進展に伴った需要減少傾向の加速は容易に予想できたという。
 そこで、隣接しつつも新たな事業領域として着目したのが商業印刷だった。しかし、当然のことながらオフセット印刷による一般的な商業印刷で既存プレイヤーと勝負しても同社に勝ち目はない。そこで、あくまでビジネスフォームで培った経営資源をカラー化によって水平展開することを考えた同社。その答えが「ダイレクトメール(DM)事業」だった。同社情報メディア営業部の中平重行次長は「当時、データ・プリント・サービス(DPS)のアウトソーシングも始まっていた。『データ印字を絡めた商材』と考えた場合、DMが最適だと判断した」と当時を振り返る。その後「マルチメール」という商品の開発を皮切りに定形外サイズの高インパクトDMで事業を拡大。現在では、ビジネスフォームとDMの売上シェアは逆転しているという。

接点を深め、関係を繋ぎとめる仕組み

鶴田 部長
​ 「第1の柱」として成長したDM事業だが、次のステップとして「よりセグメント化して高い効果をあげる」というクライアントのニーズが見えてくる。いわゆる「小ロットOne to One DM」だ。しかし、ここでも既存プレイヤーは山ほどいる。
 そこで何らかの付加価値でクライアントとの接点を深め、関係を繋ぎとめる仕組みが必要だと考えた同社は、ビッグデータの活用に着目する。情報メディア部門執行役員の坂本三郎統括部長は「個人情報のデータハンドリングはお手のもの。さらに一歩踏み込んだビッグデータ活用は自然の流れ」と説明する。
 ビッグデータ活用の計画は3年前から。「多少なりとも成長、あるいは収益が出ている間に、新たなビジネスモデルを立ち上げる必要があった。コダックをそのパートナーとして選んだのは、その新ビジネスモデル創造への思いがシンクロしたから」(坂本部長)
 コダックの福山誠一郎マーケティング本部長が中心となって実施された研修会は全6回。田中社長をはじめ各営業所の所長クラスおよそ30名が受講した。「マーケティングの基礎から営業手法など、これまでのセミナーとはまったく違った視点での研修会だった。クライアントが置かれている市場環境を、仮説ではなく、数字に基づく現実として把握し、ソリューションを提供することの重要性を学んだ」と中平次長は語る。
 さらにこの研修中にも、実際のクライアントを想定した挑戦の中で、結果を出している。
 食品の通販事業を展開する某企業では、毎月およそ1万2,000通のDMを発送しているが、売上がなかなか上がらない。そこで同社が1年以上購入履歴のない休眠客へのDMを提案。同社が得意とする高インパクトDMに併せ、休眠客のデータ分析を行った上で、可変のパーソナルメッセージを駆使して発送。結果6%のレスポンスを弾き出した。これが評価され、休眠客向けに5,000通のDMを計4回受注するとともに、その他のDMも既存発注先からの切り替えで大量受注に成功。さらにお中元、お歳暮時期のDMも受注した。
 情報メディア営業部の鶴田幸利部長は「当社主導で事が進む。こちらからの提案はある程度通る状況にある」とし、ビッグデータソリューションの発言力と価格交渉力を強調する。

人材の育成が急務

 ビッグデータを活用したビジネスの出力デバイスとして昨年2月、コダックのデジタル印刷機「ネクスプレス」を導入している。
 機種選択の必須条件となったのは、枚葉のハイエンドデジタル印刷機の中でも、A3以上の両面カラー印刷が可能なモデル。第5イメージングユニット(5胴目)による付加価値も機種決定を後押しした。同社ではクリアトナーとゴールドをオプションで搭載。ニアラインのグロッシングユニットも設備している。前記の休眠客向けDMは、このネクスプレスの初の仕事だったという。
 「ネクスプレス導入は、あくまでビッグデータありき。稼働率が悪くてもプリントショップ的な使い方は一切しない。可変データが載ったもののみで使用する」(中平次長)
 現在における同社の最大ミッションはビッグデータ活用。そのためにも、クライアントにトータル的な提案を日常的にできる人材の育成が急務となっている。
 「従来の提案営業の多くは『自社の設備を稼動させるため』、つまり自社の都合だった。しかしビッグデータを活用した提案は、クライアントの立場に立ったもので、紙メディア以外の広範囲な知識と高い情報収集能力が要求される。人材育成では課題は山積み」(坂本部長)ネクスプレスSX3300

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 コダックが印刷業界向けのビッグデータソリューションで提携するブレインパッドのマーケティング・インテリジェンス・ソリューション「exQuick(イクスクイック)」も導入し、ビッグデータ分析のツールとして活用が始まっている同社。「当社にはISMSやプライバシーマークなどに加え、個人情報を的確に管理する設備・技術がある。それなのに、なぜ、これまでビッグデータ活用に気付かなかったのか。怠慢であったと反省している」と語る坂本部長。プリンタの進化は、印刷業界にとってある意味脅威だ。そこでビッグデータを活用した印刷会社のソリューションが如何なる効果をあげるのか。今後の同社の動向に注目したい。