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博進堂
学校アルバムで完全ハイブリッド環境構築

オフセット5色機の代替と新市場開拓 〜 富士フイルム「Jet Press720」導入

印刷ジャーナル 2015年3月25日号掲載

 全国およそ3,200校の学校アルバムを手掛ける(株)博進堂(本社/新潟市東区木工新町378-2、清水伸社長)は2011年11月、オフセット5色機の代替機能として富士フイルムの枚葉インクジェットデジタル印刷機「Jet Press 720」を導入し、オフセット印刷との完全ハイブリッド環境を構築。現在のデジタル印刷率は頁ベースで61%に及んでいる。さらに水性顔料インキの広色域という特性を活かしたアートの世界での活用も訴求し、新市場の開拓に乗り出している。
清水伸社長(左)と清水美知夫会長

3,200校の平均ロットは110部

 博進堂の創業は大正10年。新潟の地で産声をあげて以来94年の社歴を綴ってきた同社は、戦前からコロタイプ印刷による学校アルバムを手掛け、その商圏を新潟から東北へ、そして全国へと拡大。印刷手法がオフセットに切り替わってからも学校アルバムのレイアウトや写真のクオリティ向上を推し進め、現在ではその数およそ3,200校に及ぶ。
 同社全事業の7割を占める学校アルバムは、印刷ビジネスにおいて多品種・小ロット・短納期の代名詞とも言える。3,200校の平均ロットは110部。つまり35万部強のアルバムの納期が卒業シーズンの1〜3月に集中するわけだ。
 一方で、もちろん1年を通じた仕事の平均化にもつとめ、そのターゲットとして商業印刷分野にも進出。とくに紙面構成やレイアウトがアルバムに近い会社案内やCIにおける印刷物の一括受注など、同社の強みである企画力を活かした商印ビジネスを展開している。
 さらに美術出版分野にも事業領域を拡大。ここではアルバム事業で培った高品位な画像処理技術が活かされている。
 清水社長は、「学校アルバム事業では、少子化の影響は避けられない。今後は1部からのアルバム、あるいは表紙だけをパーソナライズしたワントゥーワンアルバムといったニーズも高まるだろう。当社の印刷ビジネスは、今後も小ロットにフォーカスしたものになる」とし、学校アルバムで培った多品種・小ロット・短納期対応にさらに磨きをかけていく考えだ。

広色域による別世界の品質

 「小ロット化」「パーソナル化」といったニーズの高まりに対し、早くから準備を進めてきた同社。2001年に富士ゼロックス「Docu Color 60V」デジタル印刷システム、2010年にHP「Indigo」デジタル印刷機を導入。そして2011年11月、富士フイルムの枚葉インクジェットデジタル印刷機「Jet Press 720」を導入し、一気に学校アルバムのハイブリッド環境を確立。現在のデジタル印刷率は頁ベースで61%に及んでいる。
 当初、導入の条件としてJet Pressに課せられたミッションは、「オフセット5色機の代替機能」。つまり「安定した高品質」と、それを維持した「生産性」だった。
 繁忙期における菊全判オフセット5色機の生産性は90台以上/日、4台/時ペースだ。これに対し、菊半裁のJet Pressでは、単純に倍の180台以上/日がひとつのターゲットになるわけだが、実際の運用では200台/日という結果を弾き出し、その条件を難なくクリアした。
 一方、品質においても同社が求める「安定した高品質」をクリア。「印刷中の色のブレがなく、再版時もバッチリ合う」(清水社長)
200台/日もこなしたJet Press
 さらにJet Pressの水性顔料インキが持つ広い色域を活かせば、オフセットとはまったく別世界の品質が生まれる。「確かに肌の色などは抜けが良い。イラスト作品集などでは、オフセットではどうしても出なかった色を再現できる。顧客からも『きれいになった』という評価を得ている」(清水社長)
 現在のところ、学校アルバムは、オフセットとのカラーマッチングを考慮し、CMYKで運用。例えば、出力機の稼動状況を見ながら印刷を振り分けることで設備効率を高めることや、「1頁だけ間違えが見つかった」「10部だけ足らない」といった場合にはJet Pressで印刷するといった運用が可能になっている。
 「オフセットとJet Press、プロが見ても99%分からない。しかし、Jet Pressが本来持つRGBの色域を狭くして運用していることになる。今後は、学校アルバムにおいてもRGB運用にチャレンジしたい」(清水社長)

アートの世界へ

 Jet Pressのもうひとつのミッションが「新市場の開拓」である。同社では、Jet Pressの広色域という特長を活かし、写真家などのアーティストの作品を印刷するなど、いわゆる美術印刷分野での活用も提案している。そのひとつの事例として、旧齋藤家別邸で開催された写真家・中村脩氏のポスター展「新潟原風景」に、Jet PressのRGB運用による広い色域を活かした高品位なポスター印刷で参画した。
 写真家の中村氏は「写真家は、自分の写真がきれいに再現できれば『どんな方法でもいい』と思っている。Jet Pressのサンプルを見て大きな可能性を感じた。カメラマンや絵描き、デザイナーが何か企画する上で有効な表現手段」と評価している。
 本社工場を「遊び心のある空間に」というコンセプトで「ART FACTORY」と名付ける同社。清水美知夫会長は、Jet Pressも「アートの世界で活躍できるデバイスだ」と語る。
 「アルバムは小ロット・多品種・短納期、それでいて一生に残るため高級感も必要である。これらを満たすJet Pressでさらにアルバム事業を拡大させるとともに、広色域を活かしてアートの世界などの新市場を開拓し、印刷のイノベーションを目指したい」(清水会長)