PJweb news

印刷産業のトレンドを捉える印刷業界専門紙【印刷ジャーナル】のニュース配信サイト:PJ web news|印刷時報株式会社

トップ > 特集 > 印刷会社の印刷通販サービス活用 2013:プロである印刷会社が印刷通販サービスを活用する際の注意点 〜MCC 奥 敦雄 社長に聞く〜

新たな印刷サービスとして市場拡大が進む「印刷通販」。一方で同サービスを外注先として利用する印刷企業も増加傾向にあり、本紙がWeb上で行ったアンケート調査によると、印刷業による利用率は35.2%にのぼり、その数はさらなる高まりが予測される。そこで今回、「印刷会社の印刷通販サービス活用」をテーマに、プロである印刷会社が印刷通販サービスを活用する際の注意点についてMCCの奥敦雄社長に話を聞くとともに、印刷通販利用実態アンケート調査結果を公開。 さらに、プロの要求・需要を満たす印刷通販サービスを展開する19サイト(関連含む)を、量販型・特化型に分けて紹介する。

特集一覧へ

プロである印刷会社が印刷通販サービスを活用する際の注意点

MCC 奥 敦雄 社長に聞く

印刷ジャーナル 2013年7月5日号掲載

 日々、様々なジャンルの印刷通販サイトが産声をあげる中、利用者側は自らの要求に応じた発注先の選択肢が増える一方で、そのサービス内容や事業者の実力を的確に見分ける力も必要になってきている。今回、印刷業界のコンサルティングを手掛ける(株)MCCの奥敦雄社長に、プロである印刷会社が印刷通販サービスを活用する際、どのような点に注意すべきかを聞いた。

参入が難しい印刷通販市場

 まだ、印刷通販という呼び名すらも知れ渡っていなかった10年以上も前であれば、印刷通販に参入して大きく成長することはできたかもしれない。しかし、今のような状況において安易に印刷通販に参入しようという会社があれば、もう一度考え直してみたほうがよいだろう。サイト・システムの開発費、サイトオープン後の集客方法、他社との永続的にも感じられる価格競争、発注者からのクレーム、独自商品で勝負しようと思ったら大手がすぐに囲い込んでくるなど、慣れない通販ビジネスでの成功は予想しているよりもはるかに難しい道のりだ。
 そうした市場に参入して成功できる会社はもはや限られている。体力と生産力、そしてマーケティング力を兼ね備えている会社だ。そうでないのであれば、通販ビジネスへの参入はあきらめて、通販を利用する立場になったほうがよいだろう。
 現在の印刷通販市場は500億円から大きく見積もっても1,000億円を超すことはないだろう。以前ほど急成長をしているわけではないが、商材を増やすことで微増しているように見受けられる。また、業界内でも以前ほど毛嫌いする印刷会社は減っており、むしろパートナーとしてタッグを組むという動きも出てきている。

利用者の立場で見る印刷通販

 では、印刷会社が印刷通販を利用する場合はどのような点に気を付ければよいのだろうか。筆者の感覚では以下の5点に絞ることができる。
▽とにかく早くて安い
 印刷通販の最大のメリットはそのスピードと安さだ。今では当日注文当日発送も当たり前になってきており、データ入稿から5日や7日もかかると「遅い」という印象を抱かれるようになってきている。
▽価格がすぐわかる
 わざわざ見積もりを計算する必要がないのは依頼者にとってもありがたいことだ。いまだに依頼してから2〜3日後に見積が出てくる印刷会社があるというのは個人的に非常に嘆かわしいことだと思っている。
▽色の再現性
 多面付けをして印刷したり、印刷する機械が前回と異なったりするのでどうしても細かな色味を正確に再現することは難しい。色にこだわりを持っている人の仕事にはあまり向かない。ジャパンカラーなどで対応している印刷通販サイトは一部あるものの、まだまだその数は少なく、意識の高い印刷会社で印刷通販の利用に不安を感じている会社も多い。
▽紙目の指定ができない
 印刷通販は紙目を指定することができない。当然、逆目に印刷されてしまうことも多いがサービスとしてそこまで対応しているわけではないので文句を言うのはお門違いというものだ。
▽商品点数が増え続けている
 自社が対応できない商品でも通販を利用すればすぐに受注できる。クリアファイルからUSBなどのノベルティまで対応できる印刷通販会社が増えていることは利用者の立場から見るとプラスだ。
       ◇       ◇
 こうした点を理解したうえで取り組めば、印刷通販は印刷会社に対する脅威ではなく、受注獲得の1つの武器になる。メリット/デメリットともにあるが、活用法によっては会社の売上アップにも貢献してくれるだろう。
 では次に、どのような商材であれば印刷通販に向くかを考えてみよう。
 既に数多くの印刷物は通販で注文できるようになってはいるが、印刷通販には前述のような問題点もある。筆者は色目にこだわりがある人がオンデマンドで名刺をリピート注文して「前回と色目が違う。全体のレイアウトも2px程ずれている」とボヤいているのを聞いたことがあるが、そもそもこうした人は印刷通販を利用すべきではない。値段に目がくらんだばかりに自分が求める品質の商品が手に入らなかったということだろう。ファストフードの店に入って高級料亭の料理が出てくるような期待を抱いているようなものだ。
 ただ、なぜこのような問題が起きるのか、それを防ぐために今まで印刷会社はどのような取り組みをしてきたのかということが一般的に伝わっていないことは業界自体の課題として今後も取り組んでいくべきことだろう。
 さて、印刷会社が印刷通販を活用する際に取り組みやすい商材は「リピート性が低いもの」「頁物・ペラ物」「オンデマンド商品」の3点である。これらの商品は印刷通販で注文してもクレームが起きにくく、注文も取りやすい。
▽リピート性が低いもの
 印刷通販は多面付けによって1点当たりのコストを低減させ、結果として販売金額を下げることに成功している。そのため、全く同じデータを印刷するとしても周りにつけられているデータによって色に若干の違いが出てしまう。何度もリピートし、全てを細かく比べるとどうしても小さな違いは出てしまう。こうした商材についてはお客様自身にこだわりがなければ問題ないが、こだわる人を相手にしてしまうとクレームにもつながりやすい。リピートのない単発ものであれば比べることもないので、クレームにはなりにくい。
▽頁物・ペラ物
 最近ではパッケージやPOP、立体ディスプレイなどの印刷通販も出てきているが、こういったものは紙目の指定ができない。つまり制作する印刷会社側がちゃんとしたノウハウがないと紙目が一部逆になっていたりする。とくにパッケージの場合は紙目が逆になっていると箱がゆるくなってしまい、使い物にならないこともある。事前に必ず紙目を指定するなど注意をしなければトラブルの原因になってしまうため、こうした商材はあまり狙わないほうがよいだろう。ペラ物や頁物は既に受注経験・ノウハウがある印刷会社が通販を行っている場合が多く、こうしたできあがり時点での紙目のトラブルはまだ少ないようだ。
▽オンデマンド商品
 オンデマンド商品も比較的トラブルは少ない。そもそも依頼者側がオンデマンドに対する理解があるためオフセット印刷ほどの品質を求められないという背景もある。ある意味発注者自身が「安かろう悪かろう」を潜在的に理解しているということだ。ただし、オンデマンド印刷だからと言って、一定の品質が担保されているわけではない。企業によっては「どのようなクレームも受け付けない」というように発注者がクレームを入れてもまるで取り合わないような会社もある。自社がお客様との間に入って印刷通販を活用するのであれば、依頼先についてはしっかりと吟味しておいたほうがよいだろう。

印刷通販サイトの分類

 過去の特集でもお伝えしたとおり、印刷通販サイトは現在4つにわけることができる。図にあるように取り扱い商品が総合的な場合と単品に絞り込んだ場合、そして小ロットを目的にオンデマンドに特化している場合と通常のオフセット印刷の場合。オンデマンドに特化している場合は当然、小ロット・短納期を得意としているケースが多い。名刺や封筒・会社案内や挨拶状などアイテムを絞り込んだサイトも多くみられる。当然、総合的な印刷通販サイトでもオンデマンドを取り扱っているところはあるので、比較も可能だ。最近では大ロットに特化している印刷通販サイトも出てきている。1点当たりの単価が非常に安くなるため、大ロットを受注したいときには活用できる。それぞれの印刷通販サイトの特徴を理解したうえで、それぞれのセグメントで2〜3社発注候補を持っておくようにするとよいだろう。


印刷通販発注に失敗しないために

 印刷通販を利用する際にはどこに気を付けるべきなのか。まず気をつけるべきことは、印刷通販で印刷した商品だとしても、お客様はあなたの会社にクレームを入れてくる、ということだ。印刷会社が印刷通販の責任にするわけにもいかないし、かといって自社で刷り直しすると余計なコストがかかってしまう。だからこそ、発注先はよく検討しなければならない。ただ、ネット通販の困ったところはサイトが一見キレイでもほとんど運営側が放置していたりすることがあり、注文してみたら担当者がメールを確認するのを忘れていた、なんていうケースもある。
 見た目だけで惑わされないためにはどうしたらいいのだろうか。まずは「定期的に更新されているか」という点を見るようにしよう。印刷通販は印刷物を仕様別に価格を付けた、いわば小売型のビジネスだ。スーパーや百貨店、各種小売りの通販サイトが行っているように、季節ごとのキャンペーンなどは展開しているところが多い。むしろこうした更新が無いところは積極的には運営していないと判断したほうが無難だろう。更新情報を見るというのも1つの参考になるが、パッと見て3か月以上更新がされていないサイトはあまり注文が来ていない可能性があるので気を付けたほうがいい。
 また、掲示板を設置している場合、注文者とのやり取りがスピーディに行われているか。そもそも注文者やサイトの利用者からの書き込みがあるか、という点にも注目するといいだろう。ブログも多くの印刷通販サイトが設置しており、続いているところは一定の信用は置けるものの、更新されていないからといってサイト自体が運用されていないかというとそういうこともない場合がある。他の情報と併せて判断したほうがよい。お客様の声を掲載している会社も多いが、イニシャルで掲載しているところは自作自演である可能性もあるので実名で記載されているほうがよいだろう。
 どうしても心配であれば電話やメールで問い合わせるのも1つの方法だ。基本的には専任担当者がいるので、彼らがしっかり答えることができればまだ安心できる。今までのトラブルはどのようなものがあったのか、どういう点に注意しておけばいいのか。ここ数ヵ月の注文について聞いてみてもよいだろう。こちらが印刷会社であることをちゃんと名乗り、パートナーとして動いてくれる印刷通販会社を探していることを伝えれば、ある程度情報も公開してくれる。
 最近では印刷通販ビジネス自体に歴史が出てきたため、過去の注文件数や会員登録者数などを明示しているところも出てきている。こうした数字も参考にしやすい。

お客様からの信頼を落とさないために

 発注先をどこにするか決まったら、必ず事前にテスト発注しておくようにしたい。印刷の仕上がりはもちろんのこと、こちらの要望に対してどのような対応をされるかということも気を付けたほうがいいだろう。あえて間違えたデータを送ってみた時に、どのような対応をされるかというのをみるのも1つの方法だ。筆者は以前ある印刷通販サイトでリピート注文をした際、誤ってバージョンの古いデータを送ってしまったことがある。するとすぐにそのサイトから電話がかかってきて、古いデータであること、いつまでにデータを送れば納品のタイミングが遅れないかなど丁寧に対応してくれたことがある。まさか電話がかかってくるとは思っていなかったため、今でも記憶に残っており、今でも利用し続けている。こうした対応ができている会社であれば、印刷会社の皆様としても利用しやすいのではないだろうか。
 また、最近では都度見積りにも対応する印刷通販サイトが出てきている。月締めの請求書払いで支払うことも可能であり、今までの印刷会社同士のやり取りのような面も出てきている。これは印刷通販市場自体が成長するに従い、競争が激しくなりその結果として印刷通販サイト自体が生き残りのためにサービスとして取り組んでいるということだ。こうした印刷通販サイトに対してであれば、一度こちらから正式に挨拶に伺い、しっかりとタッグを組んでやろうという話も不可能ではないだろう。もしかしたら御社用に割り引いた価格表を用意してくれるかもしれない。

       ◇       ◇

 印刷通販サイトは今もなお増え続けている。その存在は従来の印刷会社にとっては脅威になるかもしれないが、とらえ方しだいでプラスにもなる。御社の今後に活用できるかどうか分からないというのであれば、一度利用してみるとよいかもしれない。



奥 敦雄 氏

奥 氏​株式会社MCC代表取締役。大学卒業後、船井総合研究所に入社。印刷業界をコンサルティング領域として研鑽を積む。2009年独立後も一貫して印刷業界に対してコンサルティングを行っている。近年はコンサルティング以外にも実務面のサポートとしてホームページの制作、イベント「印刷EXPO」の開催、印刷通販のクチコミサイト「PrinG」の運営など様々な分野において印刷業界の活性化を行っている。講演・執筆実績多数。
※運営サイト「印刷会社経営.com」にて業界誌に対する過去の寄稿を掲載。Twitterアカウント:MCC_oku