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トップ > 特集 > 京都府印刷工業組合 創始130周年記念特集:[インタビュー]笹原あき彦理事長、8団体団結で業界発展へ

 変化に未来を求めて--。京都府印刷工業組合(笹原あき彦理事長)は2021年、前身である申合組合の発足から十数回の組織の変容という「変化」を経て、創始130周年の節目を迎えた。記念行事「組合創始130周年記念式典・祝賀パーティー」は、新型コロナウイルス感染拡大の状況に鑑み来年に延期となったが、京印工組はこの組合創始130周年となる2021年を機に、京都の印刷業界の振興発展に寄与してきた先人の遺業に改めて思いを馳せるとともに、価値ある印刷産業を次世代に継承し、新たな「京印工組」に変化し、力強く未来を切り拓いていく決意を示している。そこで今回、京都府印刷工業組合創始130周年を記念した「京都印刷・関連業界特集」として、笹原理事長インタビューをはじめ、厳しい経営環境の中で奮闘する京都の印刷会社、関連業者の取り組みについて紹介する。

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[インタビュー]笹原あき彦理事長、8団体団結で業界発展へ

印刷DXと業態変革で利益の出せる業界に

印刷ジャーナル 2021年5月25日号掲載

京都印刷会館にて笹原理事長


京都印関連の構造は理想的に機能


 京都印刷産業の特長として挙げられるのは、印刷関連業界間の連携が非常に密接にとれていることだ。京都府印刷関連団体協議会として、印刷工業組合・製本・紙器段ボール・ジャグラ・紙工・シール・グラフィックコミュニケーションズの関連7団体では、各種会合・研修会などで年に十数回は顔を合わせる機会がある。また、新年互礼会では箔押も加わり、8団体協同で事業を行うこともある。

 同協議会は発足から40年以上が経つが、当時は名刺・DTPなどの組合もあり、印刷に関連するすべての業界を網羅していた。ここまで印刷・関連業界が密接に連携しているのは、他府県にはないものだと自負している。

 各団体の理事長(会長)は、年に4回以上は顔を合わせており、常に自分たちの業界の現状や課題について話し合っている。とくに年末には、京印工組の機関誌「京印季報」の新年号のメイン記事であった座談会を10年以上前から毎年のように開催しており、現状と課題を話し合うとともに、未来について模索する機会としていた。昨年はコロナ禍で開催されなかったのだが...。

 現在の京都印刷産業の課題としては、京都だけの問題ではないと思うが、少子高齢化による労働人口の減少や設備過多、また、需要と供給のバランスがとれていないことによる価格競争なども発生している。これらの問題を解決するためには、ダイバーシティ経営と印刷業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みを推進していく必要がある。


中小企業こそ、ダイバーシティ経営が急務


 政府は、主に大企業に視点を定めて人種や年齢、性別などに関係なく、多様な人材を雇用していくダイバーシティ経営を進めていくことを推奨しているが、実際は中小企業こそ、早急にダイバーシティ経営に取り組んでいく必要性に迫られていると考えている。労働人口が減少し、人手不足が進んでいる中、人材を選べない時代に入っているからである。

 このような中、京印工組では2020年度より、ダイバーシティ推進室を常設委員会に加えた。子育てのために職場を離れた女性が職場に戻りやすい仕組み、また、性別・年齢・国籍を問われずに働ける環境づくりなどを推進するため、女性経営者を中心とした3〜4名のメンバーに加えて、外部の有識者にも入ってもらい、現状を把握するための研究を進めている。

 これまでは男性社会で成り立ってきた印刷業界であるが、今では多くの女性が印刷業界に入ってきている。そうなるとトイレや更衣室が必要になることもある。また、既婚女性が多い職場であれば、託児所なども必要になってくるかも知れない。また、外国人が入社してきた場合、社員食堂では食文化も考慮したメニューを考えていかなければならない。異文化が入ってくると、現状のままでは前に進むことができない。環境を整えていくための、受け皿を作っていくための準備を進めている。

 また、これからの経営者は、人種・人権などの問題についても、どのような発言は問題なく、どのような発言はアウトであるのかを知っていなければならない。一昔前にはセクハラやパワハラという言葉が世間を騒がせた時期もあったが、これらの基準は時代とともに変化していくため、経営者は雇用する人たちに何を提供していけばいいのかを学んでいかなければならない。


全印工連「印刷DX推進プロジェクト」に期待


 全日本印刷工業組合連合会では、令和版構造改善事業として「印刷DX推進プロジェクト」を進めているが、これは印刷業界の設備過多等の諸問題を解決する事業として大きく期待している。

 同プロジェクトは、印刷産業全体の生産性向上を図るため、組合員同士による生産協調・連携の実現を目指すものであるが、中小印刷業にとって数千万円〜数億円の設備投資はとんでもなく大きな負担であり、DXで日本中の設備を上手に使っていくという仕組みは非常に有効であると考えている。

 実は京印工組では平成15年頃に印刷DXの前身のような取り組みを行っていた時期があった。「組合情報ネットワーク化事業」というもので、組合員企業の新たな付加価値創造を目指し、インターネットを介して組合員同士で仕事の受発注が行える組合員のための共創ネットワークを作った。しかし、当時は生産管理等のデジタル化や、インターネット環境などのインフラが整っていなかったため、組合員へ大きく浸透するには至らなかったが、その考え方は組合員に周知することができた。よく、先を行きすぎると逆に失敗すると言われるが、まさにその典型である。0.5歩くらい先を行くのが良いのだと思うが、2歩3歩と先を行きすぎた。

 しかし、京都では当時にDXの考え方の土壌がわずかながらも芽生えたと考えているので、情報通信のインフラが当時とはまったく違う今であれば、DXの有効な活用ができると考えているので、これにより我々の抱える諸問題を解決できると確信している。


思い出はDTPスクール設立と2014年の京都印刷文化典


 京印工組は、昭和45年に「京都印刷1000年史」として京都印刷業界の歴史をまとめた。以降の50年の歩みを式典プログラムに掲載する。これによると、印刷業界全体の50年のエポックと言えるのは、オフセット印刷化への波が押し寄せ、ホットタイプからコールドタイプへの変流が起こったことと、Macintoshの登場によるデジタル化の波などが挙げられるだろう。

 一方、組合の歴史で大きなエポックとなっているのは、やはり十数回にわたって組織形態や名称が変化していることであり、そこが大きなターニングポイントになっている。その時代、時代の歴代理事長はその時代にマッチした市場ニーズを的確に掴んで組合を発展させてきたのだと思う。これを見習いながら、今の時代の要望にマッチした取り組みを行っていきたい。

 私が組合活動に参加し始めたのは約15年前になるが、これまでの組合活動の思い出を振り返ると、京都印刷会館にDTPスクール「京都印刷高度化技術学院」が創設されたことは非常によく覚えている。新時代に対応するDTPオペレーター、デザイナーを育成するため、ウインドウズ5台とMacintosh5台を購入し、京都府からも認定職業訓練校として認可された。連日定員オーバーとなる盛況で、キャンセル待ちとなる状況だった。組合員からは大変好評な事業であった。

 また、近年の思い出となっているのは、やはり2014年の全日本印刷文化典 京都大会である。大会の1週間前からは毎日のように会場のウェスティン都ホテル京都に準備に行っていたのだが、前日に会場となる大広間を見ると1,000個の椅子が会場内にびっしりと並べられており、1,000人も来ていただけるのだと改めて感じることができた。全国の組合員・関係各位1,000人以上に参加していただき、本当に感謝しており、良い思い出になっている。


来年の記念式典では、歴代理事長、歴代事務局長、創業130年以上の企業を特別表彰


 来年に延期となった組合創始130周年記念式典・パーティーでは、歴代理事長、歴代事務局長、また、組合創始と同時期から業界を支えてきた創業130年以上の事業所を特別表彰する。また、A4サイズで約80頁、フルカラーで制作を進めている記念プログラムでは、「京都印刷1000年史」以降の50年の歩みとともに、現在の組合員名簿と理事・監事役員、実行委員名などを掲載する。理事・監事役員については、顔写真付きで掲載する。

 岡倉天心の言葉に、「歴史の中に未来の秘密あり」というものがある。時代時代の要請に応じた、その変化こそが継続するための秘密ということである。組合創始130年を、諸先輩の歴史を改めて振り返り、次の世代にバトンをつなげる年にしていく。

 今後、印刷業が利益を上げていける産業になるには、業態変革を待ったなしで行っていくほかにない。働き方改革などで環境も整備し、若者がどんどん就職してくるような業界にしていかなければならない。そうなれば、印刷業界の将来も明るい。2021年の組合創始130周年をきっかけに、京都の印刷業界が大きく生まれ変わるための第一歩を踏み出していきたい。