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トップ > 特集 > 2014 new year's interview:「新生コダック」のビジョンとソリューション 〜 コダック合同会社 藤原浩社長に聞く

十干十二支で今年は「甲午」(きのえうま)。そんな2014年の「印刷ジャーナル 新春特集号」で紙面を飾った5氏のインタビューを一挙公開!

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「新生コダック」のビジョンとソリューション
BtoBのトップブランドへ

コダック合同会社 藤原浩社長に聞く

印刷ジャーナル 2014年1月1日号掲載

 イーストマン・コダック社は昨年9月3日、およそ19ヵ月間におよぶ米連邦破産法第11章(以下「チャプター11」)適用から脱却し、BtoBビジネスに特化したイメージングテクノロジーカンパニーとして経営再建を果たした。BtoCのトップブランドとして130年の歴史を刻んできた同社が、「新生コダック」として目指すものは...。今回、2014年の幕開けに際し、コダック(同)の藤原浩社長にインタビューし、「新生コダック」のビジョンと2014年の具体的なソリューション展開について聞いた。藤原社長
2013年は堅調に推移

 振り返ると2013年は、当初から「チャプター11脱却の年」という位置付けでスタートし、「守りから攻めへ」というマインドセットを徐々に進めた年であった。おかげさまで米コダック社は昨年9月3日、およそ19ヵ月間におよぶチャプター11適用から脱却し、皆様にもコダックの完全復活を報告できたことを非常に嬉しく思っている。
 さすがに一昨年のチャプター11適用発表から半年ぐらいは多少動きが鈍化したものの、昨年の我々の経営全般は比較的、安定して推移した。また、厳しい状況ながらも多くの新規のお客様とお取引をすることができた。とくに消耗品のビジネスは依然堅調であった上に、新規の機械販売ビジネスも徐々に増えはじめた。この間の変わらぬご愛顧とご支援に改めて深く感謝する次第である。
 消耗品の中でも当社の「屋台骨」となっているプレートビジネスは非常に安定して推移している。確かに市場全体の印刷部数は減少し、用紙やインキの需要は減少傾向にあると言えるが、一方で印刷物の頁数、つまりコンテンツのボリュームは極めて安定している。新聞の分野も世界的には厳しい落ち方をしているが、それに対して日本はまだまだ堅調だと言えるだろう。
 一方、機械販売ビジネスでは、更新需要も増えつつある。設備が古くなったからといって即更新をするという時代ではないが、アベノミクス効果による景気全体の浮揚感からか、投資に前向きになる企業も増えている。とくにインクジェット プリントヘッドの「Prosper S」シリーズはかなり引き合いも増え、実際の売り上げにも大きく貢献している。
 さらに手応えを感じ始めたのがパッケージ分野におけるフレキソソリューションである。日本のパッケージ分野ではグラビア印刷のシェアが非常に大きく、浸透するには時間が掛かるという声もあるが、昨年からフレキソへの投資が動き始めているのを肌で感じている。当社でも昨年、彫刻型フレキソ製版システム「Kodak Flexcel Direct システム」の国内販売を開始すると同時に、その日本での1号機を日版グループ(株)(本社/東京都墨田区)に納入している。
 印刷業界の景況感は依然厳しいものがあり、「いつ底打ちするのか」という議論もあるが、印刷業全体の市場はシュリンクしたとはいえ今なお5〜6兆円規模を有している。この数字は産業規模としては大きな数字であることを再認識するべきである。実際、市場の中で2桁成長を遂げる企業もあるわけだ。我々は、こうした厳しい市場環境の中で、印刷会社の業績を伸ばすソリューションパートナーでありたいと考えている。

経営のスピード化と意思疎通の円滑化

 当社は昨年12月2日付けで、「株式会社」から「合同会社」組織に改組した。これはあくまでもガバナンスの形態であり、市場や顧客に対して大きなインパクトをもたらすものではないが、外資の日本法人はグループ経営のスピード化や意思疎通の円滑化という観点から、よりシンプルな会社形態へとシフトすることを目的とした改組である。
 最終的に何が重要かというと、合同会社に改組したことで本社との意思疎通が円滑になり、結果、ユーザーに対するレスポンスがより早くなるということ。我々はここに期待している。
 米国ではLLC(Limited Liability Company)という同じような企業形態がある。グローバル企業の場合、LLCや合同会社の方が、より柔軟な経営がしやすいというのが一般的な認識である。有名なIT企業や小売業など、外資大手ではひとつのトレンドとなっている。ユーザー利益創出のベストパートナーへ
印刷はマーケティング志向へ

 まだまだ印刷物の減少傾向は続くと見ているが、印刷業が「紙にインキを載せて印刷するだけ」という部分は徐々に変わっていくと思っている。そこにはマーケティング的な要素が必要で、印刷のノウハウを背景にしながらも新しい分野にもう少し付加価値の高いサービスを提供していく企業が増えてくるはずだ。
 セグメント別で見たとき、将来の成長が期待できるのがパッケージ分野だと見ている。我々もそこに対するニーズを確実に捉えていきたいと考えている。
 一方、より個人の趣向が多様化する中、「いかにパーソナライズ化されたメッセージを発信していくか」というニーズが高まっている。キーワードはやはり「オンデマンド」「バリアブル」ということになり、我々の持つインクジェット・電子写真の技術が活かされる分野である。いずれにせよデジタル印刷分野は昨年よりも大きく加速していくと見ている。
 実際、そういう引き合いも足元では見えはじめているし、「営業範囲の拡大」や「ブランドオーナーの視点に立ったサービス」が求められる中、その傾向は強まることを感じている。バリアブル印刷技術を駆使した新しいビジネスモデルを構築し、まさにマーケティングの世界で受注を確保していこうという動きも見え始めている。

デジタル、フレキソ、環境対応

 高速のバリアブルインクジェット技術開発における長い歴史の中で生まれたStream(ストリーム)インクジェットテクノロジー。現在、コダックでは、この技術を採用したインクジェットプリントヘッド「Prosper S」シリーズおよび筐体を纏った「Prosper Press」シリーズを市場投入し、幅広いインクジェットプリンティングソリューションを展開している。現在のところ生産性、品質、コストの3拍子揃ったコダックのStreamインクジェットテクノロジーと競争できる技術は存在しないと確信している。
 「バリアブルを含む大量印刷を低コストで、しかも環境にも優しい方法で」というニーズのポテンシャルはかなり大きいと見ている。白紙にインクジェットで全面バリアブル印刷を行うのが近い将来の究極の姿になっていくだろう。それを見越したテクノロジーとしてはProsperを超えるものはそう簡単には出てこないだろう。
 一方、ハイブリッドソリューションでは「Prosper S」シリーズが好調である。輪転機に大きな投資をしたユーザーは簡単にデジタルへは移行できない。そこで我々が輪転機とインクジェットプリントヘッドを組み合わせて新しいビジネスモデルを作っていくこともひとつのソリューションである。
 大きな成長を見込んでいるフレキソソリューションでは、彫刻型フレキソ製版システム「Kodak Flexcel Direct システム」に加え、フレキソ製版用プレートも当社の山梨工場から全世界に向けて出荷している。コダックは印刷機のラインナップはないもののフレキソ分野で多くのソリューションを保有している。今年はこの部分もアピールして拡販に努めたい。
 Prosperもフレキソも水性インクを使用する。そういう意味でコダックは昔から製品開発に「環境対応」という考え方を盛り込んできたと言える。コダック製品を使えば使うほど、環境に優しい事業展開を実現できると自負している。
 昨年からアサヒプリテック(株)(本社/神戸市中央区)と共同で、印刷向けプレートの現像処理済み廃液をセメント原料にリサイクルする「マテリアルリサイクル」プロジェクトを開始している。
 同プロジェクトでは、商業印刷・出版印刷・新聞印刷などのオフセット印刷方式の印刷機で使用されるコダック製のCTPプレートを現像する際に発生する現像廃液をセメント原料へ完全リサイクルすることで、現像廃液の産業廃棄物をゼロとする「ゼロエミッション」を提案。回収された廃液はセメント資材にリサイクルされ、テトラポット、防波堤などの材料を作るコンクリートに生まれ変わる。これにより産業廃棄物が削減され、自然保護や地球温暖化防止といった環境問題への課題に対応すると同時に、作られたセメント資材を災害の復旧や災害防止、生活安全の向上など人の暮らしに役立てることができるというものだ。環境対応ソリューションのひとつとして今年も提案していきたい。
 
ベストパートナーであり続けるために

 2014年のテーマは、「ユーザー志向のソリューション提案」である。印刷会社との連携を強化し、ユーザーの利益を創造するパートナーとして存在感を明確に打ち出していきたい。
 今年の大きな目標としては、BtoCのトップブランドからBtoBのトップブランドを目指すコダックを周知し、「コダックは印刷業界内のトップブランド」という企業イメージを与えられるようなマーケティング活動を展開していきたい。
 そのためにも、昨年11月1日をもって米コダック社がニューヨーク証券取引所に再上場を果たしたことは非常に大きな意味を持つ。日本のユーザー、ベンダー、銀行からの見方も大きく変わったと感じている。ビジネスを推進する上でもこの再上場は周知すべき点だと考えている。
 印刷会社はマーケティング志向へシフトすべきである。「そもそも印刷物の最終目的は何なのか、付加価値はどこにあるのか」ということを突き詰めていかないと次のステップは見えてこない。そこに対してコダックは何ができるかを常に考え、先行して提案できるように我々自身のレベルアップも必要だと考えている。
 ソリューションビジネスという観点において印刷は最も遅れている産業かもしれない。それだけに経営を革新するチャンスは多く残されており、伸び代は大きいはずだ。コダックは、そんな課題にワンストップで対応できる幅広い守備範囲を持った数少ない企業であると自負しており、そのヒントを提供できる最適なビジネスパートナーであり続けられるよう最善を尽くしていく覚悟である。