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トップ > 特集 > 製本・後加工2010:製本+シナジー創造特別委員会、紙媒体の価値向上へ邁進

平面の紙にさまざまな加工を施し、付加価値ある製品を生み出す「製本・後加工」。技術革新によりプロとアマの差別化が困難になり、さらに電子書籍の登場など業界を取り巻く経営環境がさらに難しくなる中、製本・後加工が担う役割は重要さを増している。昨今では印刷会社でも導入可能な操作性に優れた多くの製本・後加工機も上市されているが、複雑な加工はやはり専業者の技術が不可欠なのが現状。そこで今回、優れた技術と多様な設備で印刷業界の発展に貢献する製本・紙加工業界を特集した。

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製本+シナジー創造特別委員会、紙媒体の価値向上へ邁進

印刷ジャーナル 2010年2月25日号掲載

井上正委員長と田中真文副委員長
​ 紙媒体の価値向上へ-。東京都製本工業組合は昨年に「製本+シナジー創造特別委員会」を発足させ、「紙媒体」の価値向上による需要創出を目指した様々な取り組みを進めている。中でも(社)日本広告制作協会(OAC)とのコラボレーションによる展開は、印刷業界にとっても注目すべき事業のひとつだ。そこで今回、同委員会の井上正委員長(和光堂製本(株)社長)と田中真文副委員長((株)田中紙工社長)をインタビューし、同委員会設立の目的と活動、今後の方向性など、紙媒体の価値向上に向けた熱い思いを語ってもらった。

製品作りへの「意識改革」を訴求

-「製本+シナジー創造特別委員会」発足の目的は。
井上 製本業界の仕事の流れを変えていくためである。これまでは印刷会社や出版社と一緒にいれば、川の流れのように仕事が流れてきたが、もはやそんな時代ではない。
 今後は、我々も「製品作りに参画している」という意識を持ち、物作りの企画段階から参加していかなければ生き残りは難しい。
 例えば、製本会社の会社案内といえば、機械が何台あって断裁機を何台持っていて...など、設備の羅列がほとんどであるが、クリエイターが求めているのは、設備ではなく「何が出来るか」である。どんな設備を持っているかは関係ない。
 まずは、そこを意識改革する必要がある。製本業界が生き残りを図るには、我々もそこを勉強してアピールしていく必要がある。そこで当組合は昨年にOACの賛助会員となり、お互いの仕事を知ることによる紙媒体の需要創出と価値向上に向けた活動を開始した。
 これにより、従来よりも、クオリティの高い製品を低コストかつ短納期で行なうことを目指していく。
-主な活動について。
井上 活動を進めるには、まずは情報収集が大切だと考えている。周りの状況を見ながら、どの方向で進むべきか、お客さんは何を求めているかを勉強しながら、製本業界の流れを変える取り組みを進めていきたい。
 ただ、110年もの歴史ある組合では、永続している規定の組合活動があり、それぞれが重要な役目を担っている委員会という形で運営されている。
 しかし、私たちは規定の委員会の枠から一歩引いた立場で、今までとはかなり発想を変えていろいろな施策を考え、実行しようとするために特別委員会という立場で訴えている。
田中 つまり、ある意味で製本組合のマーケティング活動を行なう委員会であると言える。製本組合としても、このような取り組みを行なうのは初めてのことであるが、製本業界の発展のために様々な事業を展開していきたい。 

紙媒体の価値向上に向けWINWINの関係に

-昨年はどのような事業を行なったのか。
井上 OACとの事業では、まずは製本とは何かを知ってもらうため、製本組合で制作したDVDを見てもらった。また、面白いと思われる様々な加工見本を見せたところ、たいへん興味を持ったようだった。
 このことからも、機械ではなく、「何が出来るのか」にデザイナーが関心を示していることを再確認することができた。この加工技術を、どのようにアピールしていくかが今後の課題であると考えている。
田中 OACの会員はグラフィック系の会社が多いため、映像だけ、WEBだけでなく、折込みや小冊子など、何かしらの紙媒体も付随してくる。企業規模も比較的大きく、クロスメディアの展開をしている企業も多い。
 ただ、話をしていて感じたのは、製本業界以上に厳しい業界であるということである。時間をかけて企画・デザインしても、コンペで採用されなければ一銭にもならない。我々は厳しいと言っても、仕事をすればお金はもらえるので、製本業界の方が、まだ恵まれていると言えるだろう。
 OACの会員が製本加工の知識を身に付けることで、プレゼンのときに加工の知識を生かした提案を行ない、デザイナーの制約率を高めることに協力できればと考えている。それは我々製本業界にとっても、紙媒体の需要創出になる訳であるし、お互いにWINWINの関係を構築することができればと考えている。 これまで、多くのデザイナーは印刷会社と接点があっても、加工側との接点は少なかったと思う。最終的に完成されたデザインの提案ができるのは加工側の製本業界であって、印刷会社にはできない提案ができる。 これにより、デザイン業界にとっても、今までになかった提案ができるようになるのではないかと考えている。 

「紙」を第一義に

-本年の活動について。
井上 「プリメディックス2010」に製本組合として出展する。
 ただ、実務は当委員会で担当する。加工見本を前面に出した出品を企画したいと考えている。昨年に岡山で開催された全製工連全国大会でも加工見本市を出して一冊の本を出したが、その豪華版を制作することを考えている。
 また、会期中には講演を依頼されているので、それもアピールの機会としていきたい。
 従来は紙で作ることが出来なかった製品も、最近は技術開発により紙で作れるようになってきている。例えば「鍋」にしても、最近は紙製のものがある。このような、常識を覆す取り組みを進めていきたい。
 印刷業界は紙メディア以外も含めた業容拡大を進めているが、製本業界にとっての媒体は、あくまでも「紙」である。我々にとって、紙の価値を向上させていく視点から外れることはなく、ここが印刷業界と違うところであり、それを第一義にしていきたい。
 従来の常識では、木や金属でないと作れなかった製品を、紙で作るための工夫、創造を行なっていきたい。例えば、最近は省電力のLEDランプが世間でも話題になっているが、熱量がぐっと下がるので、イルミネーションなども陶器やガラスでなく、紙に置き換えられるかも知れない。すでにお洒落な居酒屋などでは和紙で包んだ照明もあるし、紙のカーテンを作ることが出来るかも知れない。発想を転換することで、紙媒体の価値向上と需要創出のアイデアはたくさんあると思う。
 そして、これらを産官学3位1体となって進めていくことも考えの一つと捉えている。
田中 将来的には対談などの機会も設けていく他、大手印刷会社の出版流通への資本参加についてなど、一企業では聞けない様々な業界の課題に対して、組合として聞いていく取り組みを行なっていくことも考えている。 

印刷会社の「提案営業」をバックアップ

井上 これだけ単価の安さと短納期のニーズが高まってしまうと、印刷会社の営業マンの負荷は相当なものだと感じている。現実問題として、時間をかけて企画・アイデアを出して付加価値印刷物を提案しているような時間の余裕はないはずだ。ましてや、その提案が受け入れられなかった場合は、まさにデザイナーのコンペと同じで、「ただ働き」になってしまう。
 そのような印刷業界に、付加価値ある製品作りは製本業界に任せて下さいねとアピールしていきたい。印刷業界からの仕事を待っているだけでなく、製本業界から紙媒体の需要創造に向けて働きかけていきたい。印刷業界が厳しい中、そうしなければ、それこそ紙媒体が総崩れとなってしまう。単なる工程の流れとしてではなく、今こそ印刷業界と製本業界が一緒になり、紙媒体の需要創出に向けてコラボレーションすることも大切ではないかと考えている。

デザイン業界と製本業界の橋渡し的な存在に

井上 昔の製本業界では、例えば上製本の仕事を中綴じの工場に持っていくと「やってないよ、他をあたれよ」みたいな断り方をしていた。せっかく仕事を持ってきてくれたのに、自らシャッターを閉めている。これは言い換えると、自社に都合の良い仕事を持ってこいという、ただのワガママである。
 製本業界も、これからはサービス業としての意識を持つことが大切。印刷営業をバックアップすることが製本業界の役目であると認識しなければならない。
 製本業界は、加工の知識を生かすことで、印刷業界にはできない提案を発信できるはずである。これにより、印刷業界にももっと認めてもらえる製本業界を作っていければと考えている。
 世界中の先進国で紙媒体の需要は減少している。そういう中、サービス業として、我々はどのようなスタンスをとっていけば良いかとの思いを強く持っている。
田中 将来的には、現実に仕事を組合員に紹介できる委員会を目指していきたい。デザイン業界からも、気軽にお問い合わせを頂けるような、デザイン業界と製本業界の橋渡し的な存在になれる仕組みを作っていきたい。