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 地球温暖化問題が叫ばれる中、消費者の選択を促すために、CO2という見えないものを「見える化」するための「共通のものさし」が必要になってきた。このような背景から生まれた「カーボンフットプリント(CFP)制度」において、(社)日本印刷産業連合会(以下、日印産連)主導により検討が重ねられてきた「出版・商業印刷物PCR(商品種別算定基準)」が昨年11月、経済産業省の認定を受けている。しかしながら、JISを模したとされるこのPCRを参照しただけでCFPを算定することは容易ではない。そこで日印産連では、(財)JKAからの競輪の補助金を活用して、具体的な手順をわかりやすい例を参考にしながら理解できるように構成された「『出版・商業印刷物(中間財)』商品種別算定基準(PCR)〜事業者のためのGHG排出量算定ガイドライン」を作成し、活用を促している。

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中間財として他分野に影響大
「出版・商業印刷物(中間財)」商品種別算定基準(PCR)
〜日印産連、「事業者のためのGHG排出量算定ガイドライン」~

印刷ジャーナル 2010年7月25日号掲載

2011年まで試行事業
 
 CFP(Carbon Footprint)とは、直訳すると「炭素の足跡」。商品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される「温室効果ガス(GHG)」の排出量を地球温暖化に与える影響の程度によりCO2相当量に換算して、当該商品及びサービスに簡易な方法で分かりやすく表示するというもの。これは英国発祥の制度である。日本では、2008年度に経済産業省主導で準備が開始され、2009年度から3年間の試行事業が始まっている。
 経済産業省他三省が定めた「CFP制度のあり方(指針)」には、「サプライチェーン全体の排出量を『見える化』することで削減効率の高いポイントを把握。事業者単位を超えた一体的な削減対策により、全体最適化を実現。結果、消費者による消費、使用段階でのCO2排出量の自覚を促す」としている。
 具体的には、この指針及びPCR策定共通基準に基づいて事業者や業界団体がPCR原案を作成。商品群毎に策定されたPCRに基づいて個別商品のCO2排出量を算定・表示する。「PCR」とは、「Product Category Rule」の略で、商品、サービスの種類毎に、定義、算定条件、表示方法などを定めた「商品種別算定基準」、いわゆる「ルールブック」だ。
 日印産連では、「印刷は多くの製品に関わる基本プロセスであり、中間財として他の多くの製品のCFP算出に必須となる」との観点から、いち早くPCRの策定に取り組み、昨年11月、「出版・商業印刷物(中間財)」として経済産業省から4番目の認定を受けている。
 しかしながら、事業者にとっては、JISを模したされるこのPCRを参照しただけでCFPを算定することは容易ではない。そこで日印産連ではこのたび、(財)JKAからの競輪の補助金を活用して、「『出版・商業印刷物(中間財)』商品種別算定基準(PCR)〜事業者のためのGHG排出量算定ガイドライン」を作成し、いわば参考書としての活用を促している。
 同ガイドラインの巻頭で、CFP研究委員会の平尾雅彦委員長(東京大学)は「納品する印刷物ごとに印刷機器が消費している電力や消費したインキ量を把握している事業者はおそらくいない。また、被印刷物である紙やプラスチックフィルムの製造によるGHGの排出量を知ることも困難だろう。本ガイドラインは、CFPの算定に取り組もうとする事業者が、具体的な手順をわかりやすい例を参考にしながら理解できるように構成されている」と説明している。
 このように同ガイドラインには、CFPの概要と目的、取得すべきデータの入手とその整理方法及び算定の実務(算定のサンプルケース、算定フローと各ステップの解説、利用可能な二次データ)等がまとめられている。
 
算定可能なデータの保有状況確認から
 
 それでは、CFPを算定するために、何から始めれば良いのか。
 CO2排出量を算定しようとする対象製品(ロットあたり)に関して、使用する機械設備とそこに投入しているエネルギー並びに原材料、また生産のプロセスからの廃棄物を選択。その上で、選択項目について、算定可能なデータを保有しているかを確認することが第一歩となる。ガイドラインでは、CFPの算定に際して、CO2排出量の算定に必要となるデータを持っているかどうかを把握するためのチェックシートを用意している(図表1)。各データについては、自社の工程のうち、算定対象となる製品を生産するための工程に関係するもののみが対象となり、また、「データの把握方法例」欄に複数示されている場合は、その中のいずれかの方法で把握していれば、それを用いてCFPの算定が可能となる。一方、いずれの方法でもデータを把握していない場合には、データの収集から始める必要がある。

図表1 保有データチェックシート
​ それでは、実際の実務について見ていこう。
 製品のCO2排出量を算定するためのフローは以下のようになる。
(1) 対象製品の確認
 ガイドラインが取り扱うのは「出版・商業印刷物(中間財)」のみ。したがって、算定する製品が分類表に含まれる場合には、以降の手法に従ってCO2排出量を算定することができる。
 CO2排出量を算定する対象となる製品については、その製品の基本となるデータ(サイズやページ数、印刷方法等)を把握する必要がある。
(2)機械設備の特定
 対象製品を特定した後は、対象製品を生産するために必要となる機械設備を特定する。
(3)自社プロセスの特定
 次に、CO2排出量を算定しようとする製品(中間材料や半加工品も含む)について、具体的に何を算定の対象としなければならないのかを把握する。
 出版・商業印刷物のライフサイクルのうち、算定対象の範囲は「原材料調達段階」及び「生産段階」である。したがってCO2排出量を算定しようとする事業者は、自社の活動に該当するライフサイクル段階と各ライフサイクル段階に含まれるプロセス、さらにそこに投入される原材料と、各プロセスから排出される廃棄物を特定することが必要となる。ガイドラインには、(1)自社プロセス(2)原材料(3)エネルギー(4)廃棄物を特定するためのチョックシートも用意されている(図表2)。
 そして(1)から(4)で特定した内容から、ライフサイクルフロー図を作成する。図表3はサンプルを提示しているが、ガイドラインには白紙のライフサイクルフロー図も用意されており、各社で空白部分を埋めることで整理するために利用できる。

図表2
図表3 製品ライフサイクルフロー(サンプル)

CO2排出量=活動量×排出原単位
 
 ライフサイクルフロー図ができれば、次に算定方法の確定と実際の算定に入る。
 製品のCFPを算定しようとする場合、まずは対象となっている製品の受注ロットあたりのCO2排出量を、各ライフサイクル段階について計算し合算することで把握。その上でロットでのCO2排出総量を最終製品に配分することで、製品あたりのCO2排出量算定が可能となる。
 まず、対象製品ロットのCO2排出量を算定する際の基本的な考え方は、「CO2排出量=活動量×排出原単位」となる。
「活動量」とは電力や灯油などのエネルギー投入量、原材料投入量、廃棄物量等、「排出原単位」とは単位あたり活動量で排出されるCO2量である。活動量データは、原材料調達段階で原材料の投入量と輸送、生産段階でエネルギー・水の投入量、生産段階からの廃棄/リサイクル量、生産段階における輸送について算出する必要がある。
【製品の生産に投入される原材料の活動量】
 算定事業者においてCO2の算定対象となる生産プロセスがどこにあたるかを確認し、そのプロセスの中で対象となる原材料を把握する。
 原材料とは、ここでは「紙、製版フィルム、現像液、プラスチックフィルム、溶剤、インキ、湿し水等」を指し、また「原材料の活動量」とは、算定製品の生産のために用いられる紙や製版フィルムなど、種々の原材料の投入量のことを意味している。
 投入原材料については、原則として算定対象となる製品ロットに投入された原材料の一次データに基づいて算定すべきである。印刷用紙やプラスチックフィルムは、対象ロットへの投入量(活動量)が明らかであるため、これに排出原単位をかけることでCO2排出量を求めることができる。
 これに対し、インキや湿し水等のように、投入された原材料の一次データの把握が困難な場合には、以下のような算定方法で推定する必要がある。
▽全体投入量により対象ロットへの配分が必要な原材料の算定方法
 一定期間の原材料の全体投入量(活動量)が実測できる場合は、一定期間に投入された全体原材料を当該製品の生産量を用い配分。配分された原材料の量(活動量)に、排出原単位(例えば、インキ1kgあたりのCO2排出量)をかけることでCO2排出量を求める。
▽平均的な投入量による原材料投入量の算定方法
 特定原材料の製品あたり、あるいはロットあたりに投入される平均的な原材料の投入量(活動量)が把握できる場合は(例えばインキ等の被印刷物への図柄の比率が把握できる特定の原材料)については、平均的な投入量を用い、原材料の量(活動量)を把握。把握した投入原材料に、排出原単位(インキ1kgあたりのCO2排出量)をかけることでCO2排出量を求める。
【製品の生産におけるエネルギーおよび用水の消費量】
 生産の各段階において消費される電力、燃料等のエネルギーや用水について、CFPの算定対象になる生産プロセスがどこにあたるかを確認し、その中で対象となるエネルギーの種類を特定して消費される量(活動量)を把握する。なお、エネルギーとは、ここでは「電力、燃料(都市ガス、都市ガス、LNG、LPG、重油、灯油)」を指し、また用水は、「上水や工業用水」を指す。
 エネルギーや用水の消費量(活動量)については、工場の状況や設備の配置、保有しているデータの種類等によって、その算定方法は事業者ごとに異なる。例えば、事業者によっては、単一の生産プロセスのみ(例:印刷のみ、製本のみ、表面加工のみなど)の工場もあれば、複数の生産プロセスを有する場合もある。CFPでは、原則的にはデータをプロセスごとに取得する必要があるが、データの取得や把握の方法は、それぞれ異なる場合がある。
 ここでも算定の考え方として「実測」と「配分」がある。
 例えばある製品のための生産に費やした期間を特定し(例:朝9時30分〜10時15分まで)、その期間内のエネルギー・用水の消費量(活動量)を実測・記録するなどして1ロットあたりのエネルギー量を把握する。これが「実測」だ。
 一方、一定期間内の投入エネルギー量(活動量)の実測が難しい場合には、該当する生産プロセスの一定期間内のエネルギー・用水の消費量(活動量)の総量を把握。その上で、期間内に使ったエネルギーや水の量を、使用した設備の稼働時間や印刷物の部数、重量等により配分する。また、その後目的に応じて1ロットあたりから1製品単位に配分。その場合には、納入量(例:部数、枚数等)を用いて配分する。これが「配分」の考え方になる。
 さらに、生産に関係する共有部分(例:工場の照明、空調等)については、消費電力を正確に把握し、かつこれらの消費エネルギーがどの印刷関連の設備(例:印刷機、製本機等)に関係しているのかを明らかにしにくい場合が少なくない。したがって、全体の消費電力量を実測または算定し、その上で、各種の印刷関連設備の「工場における占有面積」や「各設備別の稼働時間」などによって配分する。その後、他のエネルギーと同様、印刷枚数や重量などにより、対象製品1単位に配分する。
【輸送(調達先・製造サイト間)へのエネルギー投入量】
 輸送には、原材料調達段階に関するもの、生産段階(中間製品、廃棄物)に関するものがあるが、原材料、中間製品、廃棄物のいずれにしても、入手可能なデータに応じて、燃料法、燃費法から算出する一次データによる排出量の算定と、日印産連が策定したシナリオによる排出量の推定によって算定する。ただし、同一敷地内の移動に伴う輸送にかかる排出量は計上する必要はない。
【廃棄・リサイクルへのエネルギー投入量】
 CFPの算定対象になる生産プロセスがどこにあたるかを確認し、その中で対象となる廃棄物を把握する。廃棄物とは、ここでは「紙くず、廃プラスチック類、廃アルカリ、金属くず、排水等」を指す。
 各プロセスの廃棄物の種類を把握した後、廃棄物の処理方法について把握する。なお、処理方法には以下が考えられる。
▽一般ごみ焼却(ごみ由来CO2以外)
▽下水処理
▽リサイクル(オープンリサイクル)
▽リサイクル(原材料としてリサイクル材・リユース材を使用。クローズドリサイクルとも言う)
 「オープンリサイクル」においては、輸送は計上するが、処理工程から発生するCO2排出量と間接効果によるCO2削減量は計上しない。
 一方、原材料としてリサイクル材・リユース材を使用する場合には、その製造及び輸送に関わるCO2排出量には、リサイクル(溶剤の蒸留等)及びリユース(損紙の再利用等)に伴うCO2排出量を含める。
 原則として、廃棄・リサイクルの処理内容(処理方法)のデータについても、可能な限り一次データ(処理場ごとの処理方法、使用化石燃料等)を入手する必要があるが、一次データを入手することが困難な場合は、PCRに記載されているシナリオを利用して計上することができる。
▽全て一次データを使用
 当該製品の製造のために排出された廃棄物の種類・量に、処理方法の排出原単位(廃棄物1kgあたりのCO2排出量)をかけることでCO2排出量を求める。
▽一次データと二次データの使用
 当該製品の製造のために排出された廃棄物の種類・量の一次データに、処理方法の二次データの排出原単位(廃棄物1kgあたりのCO2排出量)をかけることでCO2排出量を求める。
▽過去データ・理論値と二次データの使用
 当該製品の製造のために排出された廃棄物の種類毎の量に、処理方法のの排出原単位(廃棄物1kgあたりのCO2排出量)をかけることでCO2排出量を求める。
 
CO2排出量削減=コスト削減

 同ガイドラインを策定するにあたり日印産連では、生産設備における電力消費パターンの実測調査を行った。事例として、図表4は印刷機の電力パターンを示している。ここでは、一般的な印刷機である定格電力38kWの2色刷り印刷機(コンプレッサー等が含まれる)によって、CFP算定対象製品を1ロット生産するための消費電力を示している。また、電力消費量については、(1)実測(電力量計を設置)(2)定格電力×負荷率×稼働時間(負荷率100%、稼働時間は準備時間と本稼働時間を含む)の2パターンを示している。
 結果、(1)実測が、(2)の推定値と比較して半分程度の大きさになっていることが分かる。これは、(2)では負荷率が100%と設定しているために、時間あたりの消費電力が高くなることに由来している。ここから、精密に実測した場合(1)には、そうでなく定格電力と稼働時間の積算で算定した消費電力(2)と比較して、小さくとどまる結果となっている。したがって、より精密に実測を行うことで、定格からの算定を行うよりも、CO2を低くすることが可能となることがわかる。
 この傾向は電力だけでなく、すべてにおいて同様であり、CFPは実測値よりも推定値で算出した方がCO2排出量は多くなる仕組みが取られている。そのため、実測値のデータ収集は非常に重要なポイントなる。
 さらにこれらのデータ収集の期間は直近の1年間とされているため、日印産連では、まだクライアントからの要請が少ない現在においても早い段階で準備・整備しておく必要性を訴えている。
 すでに動き始めたCFP制度。その最大の目的は温室効果ガスの排出削減にある。しかし事業者にとっては、CFP算定により、CO2排出量の多いプロセスや非効率なプロセスを把握することができ、効率的なCO2排出量の削減が可能になるというメリットがある。これは企業が「永遠の課題」とする「コスト」へと反映されることになるだろう。
 なお、今回一部を抜粋して紹介した「『出版・商業印刷物(中間財)』商品種別算定基準(PCR)〜事業者のためのGHG排出量算定ガイドライン」は、日印産連のホームページ(http://www.jfpi.or.jp/)で全文を参照することができる。

図表4