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トップ > 特集 > LED-UV印刷の現状と可能性:期待高まる新たなインキ硬化技術 「消費電力削減」が鍵

短納期対応をはじめ、原反の多様化や高付加価値化などに対応する印刷技術として普及してきたUV(紫外線)印刷。従来、UV硬化に使用されるランプには、水銀灯の一種であるメタルハライドランプが使用されているが、消費電力が大きく、赤外線を含むため熱を発生するなどの課題がある。これらを解決するものとして注目されているのがLED方式だ。長寿命、低消費電力のLED方式を採用した「LED-UV印刷システム」は、CO2排出削減が叫ばれる中、UV化が促進されるに伴い浮き彫りになった「消費電力の増加」という課題を解決する省エネルギーの新しいインキ硬化技術として大きな期待が寄せられている。そこで今回、LED-UV印刷の現状と今後の可能性、また残されている課題などに迫る。

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期待高まる新たなインキ硬化技術 「消費電力削減」が鍵

印刷ジャーナル 2009年12月5日号掲載

LEDの基本技術

 LEDとは、「Light Emitting Diode」の略で、電流を流すと発光する半導体素子の一種であり、「発光ダイオード」とも呼ばれている。
 発光の原理は、以下のようになる。
 「LEDチップに順方向電圧を印加すると、LEDチップの中を電子と正孔が移動して電流が流れる。移動中に電子と正孔がぶつかると結合し、電子と正孔がもともと持っていたエネルギーより小さなエネルギーになる。この時の差分エネルギーが光のエネルギーに変換されて発光する」

​ 白熱電球の場合、フィラメントが発光して、光とともに熱も発生する。その熱に多くの電力が使われるため、効率が悪いわけだが、ただ電流を流せば流すほど強い光を出すことができる。
 一方、LEDの場合は、LEDチップが発光し、熱はあまり出ないため、効率が良いわけだが、ただランプに比べると現在のところ光の量が少ないという課題もある。
 昨今LEDは、交通信号機をはじめ、携帯電話用バックライトや大型ディスプレイ、自動車のストップランプなど、身近なところで幅広く応用されているが、その理由は以下の4つの特長に集約できる。
【長寿命】
 白熱灯や蛍光灯と比較して長寿命であるということ。白熱灯のようにフィラメントが切れて点灯しなくなることや、蛍光灯のように電極の摩耗や水銀減少、蛍光物質の劣化による輝度低下がない。ただし、徐々にではあるが、LEDチップやチップを封入している樹脂などの素材の劣化により、経年的に光の透過率が低下し、輝度低下が生じる。
【小型・高耐用性】
 小型化が容易で、白熱灯や蛍光灯と比較して、かなりの小型化が可能であること。また白熱灯や蛍光灯は故障すると使用できなくなるが、LEDは小型であるため、1個の照射器具に複数のLEDを使用することができ、その中の少数のLEDが故障しても他のLEDでカバーできるため耐用性の高い照射器具となる。
【高視認性】
 視認性が高く、屋内外を問わず、幅広い分野で使うことができる。
【低消費電力】
 少ない電力でも点灯が可能なため、省エネや環境への配慮に大きく貢献する。瞬時に点灯・消灯・点滅ができ、また印加する電流量の強弱により容易に光の強さを調整できるのも大きな特長である。

JGASで期待に加速

 印刷業界では、短納期対応をはじめ、原反の多様化や高付加価値化などに対応する印刷技術としてUVランプでインキを硬化させる印刷が浸透している。従来、UV硬化に使用されるランプには、水銀灯の一種であるメタルハライドランプが使用されているが、これは印刷機と同等の電力を消費するとされている。また、UVランプは赤外線(IR光)を含むため熱が発生する。UVランプ直下では数百度、原反自体の温度も20~30度上がるとされており、印刷物への熱影響が課題となっている。
 これらを解決するものとして注目されているのが、紫外線LED光源によって専用のLEDインキを硬化させる「LED-UV印刷システム」だ。
 同システムは、リョービが枚葉オフセット印刷機メーカーとして世界で始めて開発に成功したもので、昨年ドイツで開催されたdrupa2008に参考出品し、予想を超える大きな反響を呼んだことから、製品化を急ぎ、昨年10月に主力商品のオプションとして発売。その後も他機種に展開し、ラインナップを拡充している。
 また、三菱重工業も今年6月、LED-UV乾燥システムの発売を発表。菊全判サイズの大型枚葉印刷機に対応させるとともに枚葉両面印刷(タンデムパーフェクター)への搭載も業界で初めて実現している。
 今年10月に開催されたJGAS2009では、この両社に加え、篠原鐵工所もLED-UV印刷システム搭載機を実演し、環境負荷の低減が課題となっている印刷業界において、次世代のUV印刷システムとしての期待が高まっている。
 同システムの最大の利点は、やはり消費電力の削減である。従来比で70~80%少なくてすみ、電気代の削減はもちろん、B2判機の場合、CO2換算で約86.6トン/年、森林面積で約6.8ha/年の環境負荷の軽減に相当すると試算している。
 また、LEDの寿命は約1万5,000時間で、従来のランプ方式と比べて約15倍である他、オゾンの発生がないUV波長を使用しているため、脱臭装置や換気ダクトなどの付帯工事が不要。さらにLED光源は、赤外線を含まないため、印刷資材や印刷機への熱影響が抑えられ、印刷現場の冷却コストも抑えられるというメリットがある。
 一方、LEDは瞬時に点灯、消灯ができ、乾燥装置に依存する待ち時間が発生しない他、用紙幅に合わせた照射幅の制御が可能で、LEDの効果的な運用が行なえる。
 さらにもうひとつ加えると、コンパクトなUV制御ボックスと冷却ボックスを採用するとともに、排気ブロアーボックスを設置しなくても良いため、ランプ方式に比べ設置スペースを約70%削減できる。

残された課題

 現在、「LED-UV印刷システム」を導入、または導入を検討しているのは、薄紙の油性印刷を手掛けている印刷会社が多いようだ。その目的は、「短納期対応」「後加工適性の向上」「印刷トラブルの低減」「将来の可能性模索」といったところ。リョービでは、国内ですでに9台のLED-UV搭載機が実稼働していると発表している。
 CO2排出削減が叫ばれる中、省エネルギーのインキ硬化技術である「LED-UV印刷システム」には大きな期待が寄せられているが、イニシャルコストやインキの品揃えなど、まだまだ課題は残されている。とくにLEDは、UVランプと比べて光の量が少ないという弱点があり、乾燥装置を原反に近づける必要があるため、設置自由度には難がある。
 ただ、これら課題も、普及が進むにつれて解決されていくものと見られ、実際、当初大きな課題であったユポやフィルムといった非吸収素材への印刷やニスコーティング、特色、厚紙への対応などは、事前テストが必要ではあるものの、ほぼ解決の方向へと進みつつあるとのことだ。
 また、現在実用化されている印刷用のLED装置はパナソニック電工製のみだが、アイグラフィックスやノードソン、IST、その他様々なランプメーカー及びベンチャー企業がLEDの開発に着手している模様で、イニシャルコストについてはこれらの動向にも注目したい。