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製紙メーカー各社による古紙偽装問題で幕を明けた2008年の印刷業界。それに拍車をかけるように度重なる印刷用紙の値上げ、原油価格高騰の影響による諸資材の値上げ、そして急速に成長し続ける電子メディアの存在など、印刷業界は今まさに混迷の時代に突入している。全印工連では4年前、これからの印刷産業の指針として業態変革推進プラン2008計画を発表し、社会の変化に対応した印刷会社のあり方を提案してきた。そして今年10月、印刷文化典・鹿児島大会において業態変革は、推進から実践へと進められることとなる。そのリーダーとして今年度、全印工連では、水上光啓会長(東印工組・理事長/水上印刷(株)・社長)、西井幾雄副会長(大印工組・理事長/(株)NPCコーポレーション・社長)の両氏らを選出した。今回は、水上会長と西井副会長の両氏に、組合の役割や印刷業界の現状と課題、そして発表から4年が経過した業態変革の進捗状況について対談して頂くとともに、なぜ業態変革を実践に移さなければいけないのかを語ってもらった。

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対談:印刷文化を未来に継承するために、今こそワンストップサービスの実践を

印刷ジャーナル 2008年7月25日号掲載

水上 社会が大変革しているなかで会長という大役を受けることとなり、正直「大変だ」というのが本音のところ。そして全印工連、東印工組とも、このような厳しい時代にあり方を再確認しなければならない。まさに原点回帰をしてみなければいけない、というのが私の基本的な認識である。
 これは繰り返しになるが「組合ってなんだろう」と考えたとき、やはり個々の企業が魅力ある企業になるためのサポートであると思う。組合は、基本的に皆さんの賦課金、共済で成り立っている。つまり組合の主役は、あくまでも組合員である。絶えずこの認識を忘れてはならない。だから主役は組合員という前提に立って、魅力ある組合を創っていく。そして魅力とは、自分で決めるものではなく、社会、クライアントから認められてはじめて魅力ある会社となる。しかし魅力は、自分では認識できない。周りに仲間がいて、はじめて確認できること。だから仲間の存在というのは非常に重要である。そうすると組合の基本的な機能は、「連帯」といえる。これは大切な機能で、普段は水と空気の存在のように意識されないことが多いかもしれない。しかし私は、この大切さをあらためて訴えていきたい。
東西の両リーダーが対談
​ 2つ目には「対外窓口」という機能。これは何か問題が起きないとその姿は見えてこないことが多いが、例えば今回の紙の値上げについても組合員に納得してもらえる「対外窓口」としての機能を活かしたい。そして浅野前会長から引き継いで公正取引委員会に調査を依頼したのも、その機能を活かすためである。
 そして3つ目の機能は「共済」。これも普段は、表立ってわからない。事故が起きてはじめてその大切さを実感できるもの。しかし「共済」は数値化することで確認することができる。
 組合員の皆さんには、この3つの機能について繰り返し訴え続けていきたい。そのうえで組合の対応として何をすべきなのか。それは組合員からの切実な要望に対し、きめ細かく対応し、かつスピーディーな情報発信で組合員に貢献することである。
 また国際化という視点に立って、一組合員では手に入れられない海外の情報などを提供できる組合でなければならない。そして何よりも社会から必要とされる組合であり続けたい。

西井 全国各地の組合では、組合員減少という問題を抱えていると思う。大阪でも地域によって組合活動が盛んなところと、そうではない地区が存在する。組合の活性化を考えていたときに、私は会社の活性化に置き替えて検討したほうがよいのでは、と常々訴えている。つまり各企業が活性化すれば、その相乗効果で組合も自然と活性化されるのではないか。もっと先を見据えれば、支部の活性化につながり、最終的には大阪の活性化にも波及するはず。だから会社と組合を次元の違う問題として捉えるのではなく、あらためて同じ視点に立って見つめ直すべきだと思う。
 私は就任時に、目線を合わせて話をしたい、ということを掲げてきた。水上会長が言っていたように組合員は会社の規模の大小は関係なく、みんな対等の構成員である。また印刷会社の理想の姿は、必ずしも一定ではない。つまり全ての企業の理想は個々違うわけで、そうした各企業と目線を合わせて交流を持つことが重要である。そして同じ目線で話し合うことで悩みを共有し、解決策を模索していきたいと思っている。
 浅野前会長、そして水上会長は、メッセージを明確に出している。以前は、寄り合い的な要素が大きかった。しかし現在では、メッセージを明確に出すという組合に変わってきたように感じる。これまでは護送船団方式が当たり前であった。もちろん、親睦、交流は重要な要素であるが、それとともに進むべき道を模索し、それに向けて個々の企業が努力していくことで、はじめて組合としての意義があると考えている。
 
価格転嫁は正当な行為
 
水上 値上げを発表した全メーカーが同比率、同品種で価格修正をしている。これは自由競争の経済社会のなかで、どう考えてもおかしい。我々はメーカーに対してその回答を求めたが、結果的には我々が納得できる明確な回答がくることはなかった。であれば公正取引委員会に調査してもらうべきだと判断した。

西井 大阪でもやはり諸資材の値上げという波が来ている。私は、この資材の値上げは印刷業界にとって1つのターニングポイントになると考えている。91年に最大の出荷額を誇った印刷産業が、その後は多少の浮き沈みもあったが概ね下降を続けている。これは業界の全体の体力が弱ってきている証拠である。その弱りつつあるなかで、今、諸資材の値上げという波が来ている。ここを我々は、企業として、組合として、どう切り抜けていくかが今後の重要な鍵といえる。

水上 その通りだと思う。しかし一方において我々は、価格転嫁を勇気を持って実行していかなければならないということも事実である。社会全体の物価が上昇しているなかで印刷業界も原材料の上昇分をしっかりと転嫁することは正当な行為である。そしてそれが健全な社会に貢献する印刷産業としての存在である。

西井 私も水上会長と同様に、資材の値上がり分については、しっかりと転嫁すべきだと大阪で訴えている。

水上 ここで重要となるのが、組合の存在であり、モラルの問題がある。価格というものは、低い方に流れる。本当に組合が連帯という機能を共有し、対外窓口という機能を果たすためには、モラルを持った行動が求められていることを忘れてはいけない。
 そしてこれからは印刷産業として価格問題をどう捉えるかを真剣に考えていかなければならない時期だと思う。紙などの諸資材は、一社一価という悪しき慣習が印刷業界のなかで常識となっている。私は、最終的には経済合理性に基づいた一物多価が必要であると思っている。私は、東印工組で印刷産業ビジョン研究部会を創った。これは一つの産業で紙の業界、印刷機械の業界など複数の業界が混在しているなかで、誰かがこれらをライン化し情報を共有化しなければならないという想いがあったからである。その想いのもと4年間、印刷産業ビジョン研究部会の活動を続けてきた。今後も継続しなければならないし、印刷産業に携わる全ての業界を横串でつながなくてはいけない。そのラインが構築されたことを踏まえて価格問題に取り組まなければならない。
 
業態変革は本当に難しい?
 
水上 本当に業態変革をしている企業は少ないのか。この厳しい経営環境のなか、業態変革をしているからこそ、今日まで企業として継続しているのではないか。確かに難しいとか、小企業だから等の言い訳が4年前までは通じていた。だが思い出してもらいたい。業態変革の第1ステージは「まずパソコンから始めよう」ということ。4年前はそんなレベルだった。しかし現在では、そんなことは当たり前となっている。それだけを取ってみてもこの4年間の変化は、激しく変わっていることがよくわかる。だからこの4年間、存続している会社は無意識のうちに業態変革をしているはず。

西井 難しいという意見は私もよく耳にする。私も水上会長と同意見で、そういった視点で考えるのではなく、この変化の激しい社会環境のなかで、自分たちが生き残るにはどうすべきか、ということを真剣に受け止めるということだと思う。社会がこれだけ変化しているなかで、やはり皆さんは無意識のなかで業態変革を行なっている。

水上 難しいという意見が多いのは認識している。であれば、もう一度、業態変革の冊子を読んでもらいたい。読んでわからなければ、さらにもう一度、理解できるまで何度も読み返してもらいたい。業態変革を理解することは決して難しいことではない。しかし実践するには、努力が必要となることは確かである。

西井 印刷業界は現在、厳しい経営環境に立たされている。そんなときこそ、組合が明確な指示を出し、それを組合員企業が方向性を検討するようなことができればと考えている。その手段が業態変革でもある。これからは、1つの業種としてではなく、ボーダレスな展開、つまり領域を限定しない活動をしていかなければ、印刷業界に本当の明るい未来はやってこないと信じている。

水上 組合としては、業態変革実践に向けたロードマップを提供するが、そのゴールは全印工連6,777社の各社が自ら見つけなくてはならない。そのゴールに至る過程をサポートするのが組合の役割であると思っている。
 社会が高加速度的に変化するなかにおいて、難しいと思っている組合員の方には、逆に変化をしなくていいのか、と問いたい。難しいからこそ、変化し、差別化が出来るのではないか。難しいから実践しないという状況ではないし、また組合も逃げ道ではない。社会が変化し、クライアント、エンドユーザーが変化しているなかで、我々も変化しなければ生き残れない。これは当たり前のことである。だからそのためのロードマップを創り、そして次のステージに移行するためにもワンストップサービスへの取り組みが必要となる。

西井 基本的に我々は情報産業である。しかし情報産業でありながら、大半が印刷に軸足を置いた業務を行なっている。こんな時代だからこそ、情報産業とは何か、ということを業界全体で問う必要があるのではないか。今までは、我々自身が勝手にボーダーを作っていたが、これからは紙という媒体についてあらためて見直すとともにボーダレスな展開を進めていく業態変革への取り組みを時代が求めていると思う。
 
ゴールを決めるのは自分自身
 
水上 残念ながら印刷産業の核である印刷というビジネスは、人口減少、ネット社会の普及といった社会変化のなかで伸びることはあり得ない。つまり同じことを同じように受注産業としてやっていてはコアとしての印刷ビジネスは縮小していく。であれば、お客様の立場に立って考えてみてはどうか。我々は「つくる」ということに情熱を持っているが、お客様は、考える、創る、使う、成果を調査する、という目的があるということ。
 印刷物を手に入れるまでお客様は企画、デザイン、見積、印刷、後加工、発送など数社にその趣旨を説明しなければならない。もし、一社でその全ての工程が提供できるようになれば、お客様の負担を大きく軽減でき、安心を提供することができる。これが究極のワンストップサービスといえる。しかし、そこまでは出来ないという会社も多いと思う。であれば少しでも自社の得意な領域を拡大してフルサポートができるように努力していくこと。

西井 本当は、皆さん実践しなければいけないという意識を持っているはず。だから我々の役目は、こういったモデルがありますよ、またこういうことを時代が要求している、といったことを発信していくことだと思う。

水上 また収益力ということも重要である。全印工連の19年度の経営動向調査を見てみると営業利益率は2.3%、売上に占める資材の比率が20%。しかし現在は、紙をはじめほとんどの資材価格が上がっていることを考慮すると価格転嫁をしなければ、多くの企業が赤字になってしまう。ワンストップサービスで収益拡大と明確なメッセージを出していきたいのは、収益、そして付加価値を拡大しなければ印刷産業は生き残れない。そのためには従来の領域だけではもう限界にきている。その現状を皆さんに理解してもらい、実践への取り組みを開始してもらいたい。

西井 成功事例を見て、それと同じことをしなければならない、といった思いがあるから、多くの組合員が難しいと感じているのでないか。
 業態変革は、決して統一したスタイルではないということをぜひ認識してもらいたい。つまり全印工連の加入組合員6,777社がいれば、6,777通りの業態変革があるということ。数学は、問題があってプロセスがあって一つの答えが導かれるが、業態変革は、問題、プロセスはあるが答えは、それぞれ別となる。つまり1+1=2という答えを出そうと思うから難しく感じるのであって、1+1=100となっても決しておかしくない。だからマニュアル通りにやることが業態変革という変な概念が難しいと感じられる大きな原因になっているように思う。

水上 そうかもしれない。我々が提案するのは、あくまでもロードマップであり、先ほど説明したようにゴールを見つけるのは、組合員の皆さんである。西井副会長は、業態変革の推進プラン、実践プランの両方の企画委員をやっているが、実践プランではロードマップでよりきめ細かく提案を行なっていく、といったイメージを私は持っているが、どうなのか。
西井 答えは、各企業の経営者が出すものであって、決してみんなが同じ答えに達する必要はない。しかしモデルとしての提案は、全印工連として行なっていく必要はある。問いかけを明確にして、こういった答えもありますよ、ということが今求められていると思う。だからモデルは、皆さんに見てもらうことが必要。それを自社に置き換え、参考にできること、また自分ならこうやった方が効率化できる、などそれぞれが工夫して取り組んでもらえればと考えている。
 
業態変革の実践には常に情熱を持って
 
西井 私自身、業態変革の委員として会議に参加しているなかで、今まで考えたこともないような事例、提案、方策などを知ることができた。その結果、私自身の感性でワンストップサービスということを提案している。それが正しいかどうかは別にして、印刷にこだわらず、デザインや企画、そしてWebなど印刷周辺の業務に力を入れ、ある程度は形になってきた。

水上 我々は情報発信する立場として、自社の業態変革ができていなければ皆さんに業態変革を提唱することは出来ない。そのためにも自社の業態変革については、つねに努力している。例えば経営者の役割について考えたときに、一番、外の空気を吸えるのが経営者だと思う。私は、会社で新鮮空気配達人と言っている。外の空気を吸い続けること、そして社内にその空気を持ち込むのが経営者の役割。組合に置き換えてもその役割は同じであると今は実感している。やはり業界が絶えず活性化しなければいけない。その原点は、いつでも経営者が活性化しなければいけない、そして情熱を持ち続けなくてはいけない。これは非常に大変なことだが、情熱を持ち続けることが全ての基本であり、それがなければ社内に活力は生まれてこない。私達の役目は、会社でも組合でも情熱を持ち続けること。私も西井副会長と同じように、会社も組合も同じだという考えである。だから情熱を持って活動できる。だから組合員の皆さんもその情熱をぜひ持ってもらいたい。

西井 自分自身が活性化していくという気持ちと覚悟がなければ、これからは生き残れない。経営者の気力が無くなってしまったらその企業は終わってしまう。だから一番気力のある人が経営者として指揮すべきであり、外に向かって行動していくこと。私自身、会社としては四代目の経営者である。経営者としての能力があるかは自分自身では判断できないが、気力だけは誰にも負けない、という信念を常に持ち続けている。

水上 印刷の将来は明るい。厳しいけど明るい。さらにIT化社会が進む。IT化を効率化と考えると、もっと効率化が求められる社会になる。
 我々は人間である。心を持っている。つまり感性がある。感性が無くなる社会は絶対にあり得ない。効率化すればするほど我々の感性、つまり感性価値が重要なものとなってくる。
 効率化された社会では、人間の感性、五感という原点に戻って、自分でものをつくるとか、自分でものを読むといったことに帰ってくる。その感性をカタチにしていくのは印刷である。確かにITの利便性がそれを上回るものもなかにはあるだろう。しかし感性というITが持ち得ない我々の最大の価値を利用することができれば、印刷は大きな産業として必ず生き残っていくはずである。またITについても、決して敵対するのではなく、活用することでさらなる効率化、付加価値化を実現できるのであれば、積極的に融合したビジネスモデルとして構築すべきである。

西井 印刷は、メディアであり、情報を伝えるという役割を担っている。これまで我々は、大量に刷ることだけに軸足を置いていた。伝えるという行為は、どんな環境に変化しても無くなるものではない。領域を限定すると不況だが、領域を拡げればより多くのビジネスチャンスに出会うことになる。

水上 そのためにも、もう一度業態変革推進プランを見直してもらいたい。そのうえで今年10月に開催される印刷文化典・鹿児島大会に足を運んでもらい、実践プランに向けた全印工連としての提案という大きなお土産を持ち帰ってもらいたい。