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全日本印刷工業組合連合会が打ち出している「業態変革推進プラン-全印工連2008計画」は、第1ステージ「業態変革ミニマム」から始まり、第2ステージ「原点回帰」を経て、現在、第3ステージ「新創業」へと移行している。これら一連の業界中期計画を印刷関連業の若手経営者はどのように捉えているのか。そこで今回、新春特別企画として、全印工連の浅野健会長と関西の若手経営者4名にお集まりいただき、「業態変革」をテーマに座談会を開催。現状を再認識した上で印刷業における真のイノベーションに迫ってみた。

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プロとしての誇り、印刷業としてのプライドを...

印刷ジャーナル 2007年1月1日号掲載

 全日本印刷工業組合連合会が打ち出している「業態変革推進プラン-全印工連2008計画」は、第1ステージ「業態変革ミニマム」から始まり、第2ステージ「原点回帰」を経て、現在、第3ステージ「新創業」へと移行している。これら一連の業界中期計画を印刷関連業の若手経営者はどのように捉えているのか。そこで今回、新春特別企画として、全印工連の浅野健会長と関西の若手経営者4名にお集まりいただき、「業態変革」をテーマに座談会を開催。現状を再認識した上で印刷業における真のイノベーションに迫ってみた。この中で浅野会長は、「業態変革推進プランに対する反応のほとんどが『総論では理解できるが、具体的策が見出せない』というものだ」としている。しかし今回出席の若手経営者からは総じて「自社の事業計画のバランスを図るツールとして有効である」との認識が示された。ただそこには「プロとしての誇り」「印刷業としてのプライド」というキーワードが浮上している。浅野会長率いる全印工連のオフェンス姿勢に対して、若手経営者がどのような反応を示したのか。この座談会を再現してみる。


浅野 会長 井戸 氏 岡 氏 安平 氏 森澤 氏


先進モデルの追求...オフェンス姿勢の全印工連
 プランは「使えるツール」

浅野 昨年12月、東京で業界紙のトップと記者の方々との懇談会を開催した際、業態変革推進プランに関して、耳にした生の声などを聞かせていただきました。その意見を集約すると「総論では理解できるが、各論、また各企業にとっては『具体的にどうしていいかわからない』という捉え方がほとんど」とのことでした。
 「その層に対してこれから如何に提案・提言していくつもりですか」「あまりにも先走りすぎてはいないですか」「第2ステージで提示した7Keysも、ようやく言葉として浸透しはじめたばかりですが、実際、この自己診断チェックシートを実践した方はそんなに多くないですよ」「そういう状況のもとで『新創業-5Doors』を発表されたが、現状を分かっていますか」などの意見が大半を占めました。これらの意見は私の中では「想定内」だったわけですが...。
 業界団体がどこにターゲットを絞るかということは古くて新しい問題。私は現在の全印工連会長を「1期2年じゃ辞めません、また2期4年以上もやりません」ということで引き受け、現在2期目、通算で3年目を迎えていますが、この任された4年は「オフェンス」の姿勢を貫く決意です。今日お集りの若手経営者の皆さんにとっては、決して先進的ではないかもしれませんが、我々チームはこの4年の使命を「お客様から選ばれるための先進モデル追求」と位置付けているので、「よく分からない」という人が8割、9割いようとも、そこに照準を合わせるつもりは毛頭ありません。そして業界団体は弱者救済の団体であってはならないと考えています。「ぜひ実践してみて下さい、自分の頭で考えてみて下さい、我々はロードマップを示しているけれども、最終的に行き着く先はご自身で考えて下さい」というスタンスなんです。
 前述の懇談会のなかで、「もっと到達点を明確に示すべきだ」という意見も頂戴しました。しかしそれは違うんじゃないでしょうか。組合はいくら「印刷」という括りであっても似て非なる企業の集まり。メインのお客様の属性によって、その企業の性格、機能は違っているのが当然だし、いつをもって到達点とするのでしょうか。また到達点とは非常に抽象的です。私にとっての到達点は、社員全員がさらにお客様のお役に立つことを考え、相談し、実行していくということであって、それならば、それは常に歩きながら、また走りながら、時には方向転換して、お客様のニーズを捉えながら考えていくべきものだと考えるわけです。
 我々チームは、「トータルメディアコーディネーター」という表現をしていることはしていますが、仮に我々が「これからの印刷産業の到達点はここです」と示しても、全社が目指す必要もないし、達成できるわけでもありません。到達点を示したところで何の意味もないように思います。
 環境がダイナミックに、かつスピーディに変化する中、変化した後にどう対応するかではもう遅い。我々の歩みを社会は待ってくれない、また我々のために社会があるわけではないからです。我々がどのような存在であれば、社会の中でコンシューマーのお役に立てるかということを徹底的に考え、それが結果としてお客様から必要とされ、選ばれる、そして事業の継続を図ることができるということでしょう。業界団体は、そこに照準を合わせるしかないと考えています。
 ダイナミックでスピーディな変化を予測した上で、お客様のニーズがどのように変わっていくかという仮説を立て、その仮説に基づいて、先回りしてお客様のお役に立つことを考える。今までのスタイルを継続するだけではお客様のお役に立てなくなるのは分かりきったことなんですから。
 そうすると具体的な投資が必要になりますよね。その原資は足下、つまり印刷で叩き出すしかありません。そういう意味で第2ステージでは「原点回帰」と申し上げたわけです。
 投資をして、新しいスタイルを定着させ、そしてそれをまた変えていく。そこで必要になるのが、起業家魂、創業者マインドです。「人は経験から成長する」ということも大事なことですが、反面、その経験、またそこから生まれた常識によって我が身を縛り付けてしまう傾向にあります。そこから自分自身を解き放たなければならないと思いませんか。
 現在当社でもそれにチャレンジしていますが、そう簡単ではありません。しかし半歩でも足を進めないと始まらないし、そして半歩足を進めることで不思議と違った状況が見え、さらに今度はその状況への対応を考えることで、また半歩進むことができるわけです。まず自分自身で方向を定め、優先順位を決め、半歩足を進めましょう。そうすると必ず視野が広がるはずです。
 また全印工連では現在、第4ステージが必要かどうかを議論しています。仮に第4ステージが必要となると、人間系にいくのか、金融系にいくのか、いろいろ議論を重ねているところです。しかし一方では「後は実践。第4ステージはもう必要ないんじゃないですか」という意見もあります。
 いずれにせよ、我々チームの任期はあと1年数ヶ月。こういったことなどをご提案していこうと考えています。

 今回の座談会をきっかけに、懐疑的な立場から業態変革推進プランの内容を改めて見直しました。そして今日は批判的なコメントを用意しようと思っていたのですが、「非常に良くできている」というのが率直な感想です。この内容は各社が自ら考え、悩み、プランすることだとは思いましたが、逆に業界団体が推進していることについて「すごい」と感じました。もちろん浅野会長がおっしゃる通り、印刷業でも似て非なる企業ばかりで、それぞれの道があるわけですが、この業態変革推進プランには批判的な考えをお持ちの方も少なくないと聞いていたので不思議に思いました。私は決して先進的すぎるとは思いませんし...。

安平 私も岡さん同様、「よくできてるな」というのが率直な感想です。ちょうど新年度に向けた事業計画を作成していた時に、今回の座談会のお話をいただき、業態変革推進プランの内容に改めて目を通しました。当社は製版業なので、若干違う立場から捉えているかもしれませんが、自社のグランドデザインをしていく中で、非常に良い「参考書」です。同プランを参考に、まとまりつつあった計画も少し修正をかけたほどです。


新たなプロの条件...低下する20世紀の専門性
 プライド、誇りを取り戻せ
 
浅野 この業界中期計画は、どこかのシンクタンクに丸投げして作ったものではありません。策定メンバーの9割が、今日も悩める全国の印刷会社の経営者なんです。私がよく「参考になるところは使ってみて下さい」「参考にならないところは捨てて下さい」「足りないところはご自身で考えて下さい」とお話しします。そうすると「ご自身で考えて下さい」という部分を取り上げ、「それって俺たちを切り捨てるんだな」という捉え方をされてしまうことも多々あります。しかし、業界団体がそこに加盟する企業を切り捨てるということはありえないし、そういうつもりも毛頭ありません。しかし「マーケットは非情である」ということを理解してもらいたいわけです。

安平 製版業者も深く考えなければならないですね。

浅野 いま製版業としてお仕事されている皆さんは、印刷会社の内製化という背景、アナログからデジタルという大きな技術進化の中で、限りなく印刷会社に近づいているように思います。まさに業態変革をされた方々です。しかし、私は製版業の方によく「ここで満足したら俺たちと同じだぜ」と話すんです。業態変革には終わりはないんですから。しかし動きが鈍かった印刷会社よりフットワーク良く自らのビジネススタイルを変革してきたのが製版業界だと認識しています。

森澤 私がモリサワに入社した1986年は、まだ数億円もするトータルスキャナの全盛期。その後パソコンが文字と画像の統合を実現したわけですが、この技術革新が、印刷の産業構造そのものを根底から覆すという認識は当時我々にはありませんでした。それはモノクロの世界だけの話だったからです。ところが1990年頃からDTPの世界でカラーが扱えるようになり、同時にアメリカの合理的考えのもと、残すべき文字組版におけるルールまでもが失われ、結果、印刷業界が完全にボーダレス化してしまったわけです。
 一方で画像処理に関するノウハウはもちろん、製版技術を活かした印刷のノウハウも蓄積してきた写植・製版業の方々が力を付けていく様を、この十何年間見てきました。片や印刷会社はDTPの内製化が若干遅れたような気がします。

浅野 それに、当社もそうだが、デジタル化すること自体を目的にしてきたように思えてなりません。デジタル化は手段であり、それを如何に使いこなし、如何に業態変革するかという視点が欠如していたように感じます。この視点は今後、非常に重要ではないでしょうか。

森澤 そして現在、プリプレス系のツールにおいては、印刷会社であろうとアマチュアであろうと、すべて同じものを使っていることに問題があるようにも思えます。その結果として、価格が崩れてしまったという側面もあるでしょう。

井戸 そこに関連するかどうかはわかりませんが、最近私がよく考えるのが「プロとしての誇り」「印刷業としてのプライド」なんです。このあたりの内容は、業態変革推進プランでもあまり触れられていないように思います。
 最近、印刷業の1つの方向性として「クロスメディア」という言葉を耳にしますが、私はここにかなりのギャップ、違和感を感じています。確かに採用活動する際、クロスメディアという分野で募集すると、いくらでも採用できるでしょう。しかし、現場でインキにまみれる印刷オペーレータとなると、非常に採用するのが難しいわけです。一方、中国では印刷業界は人気業界で、印刷関係の学校も急激に増えています。日本で印刷学科のある学校がどれくらいあるでしょうか...。それだけ中国では、印刷業界が誇りとプライドをもっているということです。
 一方で、印刷マーケットに新たに入ってくるアマチュア及び他業種は、当然のことながら印刷に誇りなど持っているわけがありません。そう考えると、浅野会長がおっしゃった第4ステージでは、何をモチベーションに働くか、印刷業に誇りを持てるか持てないか、という部分が盛り込まれてもいいんじゃないかと思います。
 業態変革推進プランは、非常にバランス良くできていると思うし、安平さんがおっしゃったように、自社の事業計画のバランスを図るツールとして有効です。その上で、印刷業としてどこにプライドを置くのか、どれが変えてもいいところで、どこが捨ててはいけないところなのか、という見極めが大事だと私は考えています。

浅野 おっしゃる通りですね。確かに20世紀の専門性は低くなってきたと思います。それは印刷業のために社会があるわけではないからです。印刷物を必要とする人たちが安易に印刷物を作れるようになったことは、我々にとってはネガティブな風かもしれませんが、基本的には良いことだと私は捉えています。
 さらに、専門性は下がっただけでなく「まさかそんなことが求められるとは思わなかった」という「安心」「安全」ということが現在求められていますよね。
 例えば昨年末、日産自動車から538万件にも及ぶ顧客情報が流出した可能性があると報じられましたが、「印刷業ならこんなことは絶対ないよ」というようにしないといけません。つまりアマチュアがしないこと、できないことを印刷会社は確実に実行しているという「新たなプロの条件」に対して、積極的に嫌がらずに取り組み、「新しい専門性」とすべきではないでしょうか。それを井戸さんがおっしゃるように「プロのプライド、誇り」にどう結びつけていくかを相乗的に考えていくべきでしょう。
 現在、1年間でおよそ1,100社の印刷会社がマーケットから消えています。これを「大変だ」という人もいますが、しかし、プロとしてのプライドを持てずにお客様からも選ばれず、将来について魅力を語れない人たちが我々のフィールドから去っている、という意味では決して悪いことではないでしょう。このように一つの現象をどのように捉えるかは非常に大事ですよね。
 私のような団塊の世代の人間は、「アナログ」なんです。実際、私が営業している時代にお客様からデータをお預かりするような経験はしていません。こうして皆さんのような次の世代、またその次の世代に如何にバトンタッチしていくのか。そのバトンを受けていただく皆さんと、このようにお話しできることは本当にありがたいことです。そんな皆さんから「プロのプライドを持つべきじゃないのか」と言われると、全くその通りだと思います。


戦略的な企業統合...2006年がターニングポイント
 人それぞれの「熱い思い」

浅野 2006年は印刷産業にとってターニングポイントの年になるかもしれません。実は、2005年までは印刷物の量は増えていたんです。確かに印刷産業は、20004・2005年でピーク時に比べて出荷額も就労人口も企業数も80%にまで減少しましたが、紙の出荷量は120%、インキに至っては160%になっています。ということは、ディスカウントはしたけれど仕事はあったわけです。しかし2006年、とくに昨年6月以降は、紙・インキ量ともに、フラットになってきています。つまりディスカウント状態が続いたままでは、仕事量の確保が難しくなっているということなんです。そうなれば今後戦略的な動きを考えなければいけません。
 最終的には業界団体としても戦略的な企業統合、つまりお客様のお役にさらに立つためには経営資源をより豊かにするべきであると考えています。しかし、そう簡単にできることではないし、かといって簡単に企業統合するわけにもいきません。そこに戦略性と高い志のもと、コラボレーションから統合へと動くトレンドを、どこかで業界団体としても標榜していかなければならないでしょう。実際すでにマーケットには印刷会社の売り物、買い物が出回っています。こういう事実を直視して、より深く考えるべきだということを提案する必要があります。

森澤 バブル崩壊後、北海道では拓銀がつぶれましたよね。北海道は大手都銀が立ち入れなかった地域で、拓銀、道銀でシェアを二分していました。その1つが破綻したわけですから、本州でいうとメガバンクが1つ、2つなくなった感じでした。さらに公共投資抑制の流れと相まって、大手の広告代理店が破綻したり、地場の大きなゼネコンがおかしくなったりと、日本経済の縮図がそこにあったわけです。結果、印刷業界でも再編が起こりました。現在、日本経済は大手企業を中心に持ち直していますが、まだまだ予断を許さない状況だし、同様のことが今後起こらないとも限りません。

浅野 いままでの経済の中で、縮小均衡でうまくいったケースはありません。スケールアップというより、スケールアップを狙いながら、結果として維持していくということが大事なのではないでしょうか。
 さて、これからは経営者の質、体力、あるいは人脈、ノウハウ、エネルギーが問われる時代。そう思えてなりません。
 私自信もいま、はじめて事業欲に目覚めているところです。当社の主力マーケットは、安定はしているものの成長性がないため、新たな成長戦略を作っていく必要があると痛感しています。正直なところ、いままでは悶々とした中で経営に携わってきましたが、いまは楽しくて仕方がない。これは「お前、馬鹿じゃないの」と言われながらも、業界団体のお手伝いをさせていただいたからです。結構エネルギーは使いますが、それ以上にリターンがあります。
 業界変革推進プラン第3ステージのテーマ「新創業」には2つの意味を持たせています。ひとつはまさに「起業家魂」。どんな会社にも起業時、創業時があり、創業時といまと比べれば絶対今の方があらゆる経営資源が豊かなはずです。そうでなければ、いま事業を継続できているはずがないからです。もしいまより創業時の方が豊かなものがあるとすれば、それは事業欲や志、熱き思いではないでしょうか。
 おかげさまで我々のような戦後生まれの団塊の世代は自らが飢えたことはありません。しかし私たちの親たちは飢えていたんです。日曜日の子供の運動会に行く約束をしたのに行けない、そんな思いを胸に工場で機械をまわしていたはずです。裸電球の下で、夏場はランニングシャツ1枚で機械をまわしていたはずなんです。そういう時代、努力があったからこそ今があるということは忘れてはいけません。何でも手に入る現在、確かに今は今なりにしんどさもあります。しかしそんな言葉を口にするのは先輩たちに失礼だし、もし私がそんな言葉を口にすれば、あなたたちから軽蔑されるだけの話。もう一度、創業時の熱い思いを持とうじゃありませんか。
 もう1つは「過去からの脱却」です。新しい常識を自分たちで作っていこうという思いです。過去の経験はとても大事ですが、しかしそれに縛られてはいないでしょうか。

安平 私は3年前に父から事業を引き継ぎました。入社以来、「息子は一番朝早く出社して、一番遅くに帰る、一番働かないといけない」という感覚、つまり自分も創業者のつもりで父親と一緒に作ってきた会社だと思っています。
 製版業は業態変革しない限り生き残る方法はない。私は常に変革のアクションを繰り返してきました。父親より「熱い」と私自身は思っています。
浅野 その「熱さ」は親父さんたちの世代と表現は違うよね。一見クールに見えても、「すごいよね」「したたかだね」とか...。私は「しなやか」という言葉が好きだな。業態変革も「しなやか」にいきたいものですね。

 当社の場合は、親父が突然亡くなり私が事業を継承しました。その後、全印工連から「原点回帰」というコンセプトを打ち出されました。私は以前、違う業界のメーカーに勤めていたため、もの作りという点で「印刷業ももっと可能性があるはずだ」という思いがあり、その「原点回帰」という言葉が私の琴線に触れたのを覚えています。
 そこで親父が育てて大きくしてきた会社ですが、自分なりに分析、整理していくと、以外と可能性を感じたんです。「新創業」じゃないですが、「経営って面白いな」、そしてそんな経営ができることに「恵まれた立場だな」と感じました。
 一方、「変わる」というこがこんなに恐ろしいものかとも感じました。それ以来、私の仕事は外から新しいアイデア、コンセプトを持ち込んで、作っては潰し、作っては潰しを繰り返すことだと考えています。
 その物差しとして業態変革推進プランは「使えるツール」って感じです。

浅野 第2ステージで提示した自己診断チェックシート「7Keys-65項目」について、「こんなもの小企業じゃ使えないよ」という声があって、東京都印刷工業組合の中の小企業変革推進委員会で特別チームを編成、「簡易版7Keys」を作成しました。そこで議論した結果、やっぱり7つの視点は必要であるとの結論に達したんです。もちろん多少表現が変わったところはありますが、65項目が50項目になっただけ。つまり「これは小企業には必要ないよ」というものではなかったわけです。


業界団体への期待...投資は「予測で仮説」
 リスクなしでリターンはない

 いろいろお話を聞いている中で疑問に思うんですが、世代毎に業界団体に対する期待は違うものなんですか。

浅野 結果的に違うかもしれませんね。まず業界団体がどんなことをしているかということをご存知なのが組合員の中で25%くらいでしょう。その中で上の世代で近代化促進事業バリバリの方々は、やはり物足りなさ、ノスタルジックな思い、さらに言えばハードメリット思考だと言えるでしょう。近代化促進事業は完全に国の中小企業政策で、設備投資を手段とした大企業との格差是正でした。これを組合を通してやったわけですからハードメリット思考なんですね。
 右肩上がりの時代だから、「設備投資」と表現していますが、実は償却を増やす節税対策だったんじゃないかと思うくらいこの事業ではリスクがありませんでした。一方、これからの投資は、「予測で仮説」ですから非常にリスクがあるわけです。しかしリスクをとらなければリターンはない。これも事実です。それならばリスクを圧縮する努力が必要であり、ここをどうするかなんです。
 あなたたちの父親の世代は、結構ノスタルジックな話をしたいもの。業界団体は、そんな人たちがあつまって話をする場でもあるわけです。

 それは団体の機能の1つとしてですか。

浅野 基本は懇親ですから。知り合うことなんです。知り合った関係から信頼の関係に繋げて、コラボレーションという考え方、さらにより戦略化して企業統合へ、というところにもっていくことを、極端かもしれませんが、日常化させていかないと、いまではマーケットを去る企業が1,100社で済んでいますが、そんなものじゃ済まなくなりますよ。
 業界団体についていろいろお話ししましたが、私自身、「浅野さん、業界活動大変ですね、自社の仕事できないでしょ」「ボランティアですよね」とよく言われます。そうじゃないんです。自社の仕事をせずに業界活動のお手伝いはできません。それは臨場感がなくなってしまうからです。これは「ボランティア」でもなく、自分のためにやっているんです。そうなると時間という月謝を払う必要がありますよね。つまり企画されたセミナーで学ぶということもありますが、どういうセミナーを企画すれば皆さんに聞いていただけるかということを考える方が、よほど自分のためになるということです。


常識覆すことから...印刷の「強み」再認識
 業態変革は企業風土改革

井戸 当社では2年かけて5Sを強烈に推進しました。昨年1年間でも、レイアウト変更が20回以上、ピーク時の7~8月では毎週レイアウトを変更しました。結果、およそ100坪以上のスペースを稼ぐことができたんです。整理・整頓・清掃・清潔、そしていま最後の躾のところの定着に取り組んでいるところです。
 5Sを実践するといろんなことが見えてきます。その中で「目で見て物を管理していこう」としたとき、なぜか当社ではMIS(Management Information System:管理情報システム)と直結してきたんです。そこでMISのデータ入力方法まで変わり、最初5Sからはじまったものが、いまでは「見える化」のところまで来ています。
 そして今年は、お客様のことをもっと知ることに全社をあげて取り組もうと考えています。業態変革推進プランの考え方に近いのですが、まだ具体的な方法は決まっていません。ただ、営業だけでなく印刷現場の人間もお客様が求める品質より過剰品質になっていないか、またその逆はないか、スピードが求められているのに品質を重視していないか、さらにお客様の物の流れ、お金の流れというものをお客様の立場になって考える、そういった中でいままでの常識を覆すようなポイントが見つかればと考えています。
 また、これも実践するかしないかは分かりませんが、従来の「印刷1部あたりいくら」というものを、「印刷物に対してのレスポンス1件あたりいくら」というような成果報酬的な考えを持ち込み、今までと違った常識の中で印刷ビジネスにチャレンジしてみたいとも考えています。

安平 我々の主業務「製版」はいずれなくなるかもしれない工程。だから変わらざるを得ないんです。日常の業務が「変える作業」だと言っても過言ではなりません。そのため、当社でも5Sを軸として様々な取り組みを進めています。
 最近つくづく思うのですが、私は己を見失いがちになっていたように思います。マルチメディア会社の真似事をしてみたり、印刷会社の真似事をしてみたり...。しかし、よくよく考えると、結局、我々が誰に対してどこでお役に立てるかとなると「印刷会社」に対する「製版」のサービスなんですよね。そこで当社では、あくまで製版技術をコアに、印刷設備も整え、製版から色校正までのサービスを2年間展開してきました。
 その中で「グラフィックアーツの技術は本当におもしろいな」と感じるようになりました。社員も同様です。社員にはいつも「お父さんは、これでお前たちを食べさせているんだよ」と子供に胸を張っていえるような仕事をしようと話しています。そうすると当社では「製版」しかないんです。
 そして現在「製版屋だからできる印刷」に取り組んでいます。目指すところは、印刷会社やプロダクション、フォトグラファーにとって、必ず必要なメンバーの1社になれる会社。その実現に向けて昨年末、会社規模には見合わないくらいの大きな設備投資を実施しました。これら取り組みは、社員の活力源となって良い意味で会社の変化に拍車をかけ始めています。

 いま当社では、うちが突然潰れたとしたら、お客様が困るであろう仕事はどれくらいあるのかを検証しています。当社は文字から入っているので「まず定期刊行物があるよね」といった感じで、社員と1つずつ洗い直す作業です。つまり、価格競争にまみれて儲からなくなっているというように見ていたものを「いやそうじゃない、これがなくなったらお客様は困るはずだ」という視点を持つようにしています。そこで次に何ができるかということを考えていくんです。
 我々が作っている印刷物が、お客様の中でどういう意味を持っているのかということを少しずつ検証していくと非常に面白い。改めてそこに突っ込んでいけば「うちの会社も何とかなるな」という確かな感触を掴んでいます。同時に、当社は大阪市のオフィス街に位置するため、当然のことながら「ワンストップサービス型企業」としてのあり方を追求していくしかないと考えます。
 先ほどの井戸さんの話にもありましたが、私の周りの仲間で「クロスメディア」に注力している印刷会社はほとんどありません。意外と我々の世代の方が印刷の「強み」というものを認識しているような気もします。当社で言うと、製本が価値を持つことも多々あります。いずれにせよ、インターネット屋さんと競うような真似は避けたいですね。

浅野 ワンストップサービスという考え方は、お客様の煩わしさを如何に吸収していくかということでしょう。例えば3~4人で全員が機械を回しているような会社に業態変革として「クロスメディアだ、メディアコーディネーターだ」というのは無理な話。それよりも「お客様の便利屋さんになったらいかがですか」という提案の方が、よほど真実みがあると思いませんか。

 まさに当社は、「用事をこなす人」としての信頼を高めることに注力しているところです。

浅野 業態変革とは「企業風土改革」なんですよ。井戸さんがおっしゃった5Sもまさにそうだし、自己変革というものが必要になってきますよね。そこで「自分の人生設計、ちゃんとできているの?」ということです。何のために仕事をしているのかと聞くと、ほとんどの方が自己実現や自己成長など、人生の豊かさを求めて仕事をしているわけでしょ。ところがそこに計画がないのに、それを実現するための手段だけを計画するというのは不自然だと思いませんか。
 当社ではいま、中小企業から中堅企業に脱却しようとしています。中堅企業には、大企業のある種の厳しさと中小企業のフットワーク、あるいは家族的な人間関係、信頼関係を併せ持つ企業風土がある。そんな会社にしたいと私は考えています。


東京一極集中是正を...カントリーリスク
 「日本文化はすべて西から」

浅野 今日こうして関西の若手経営者の方々とお話させていただいて、少し年上なので、こういう言い方を許していただきたいのですが、「皆さん、すごくしっかりしているな」というのが感想です。真剣さが伝わってきます。
 最後に皆さんに1つお願いがあります。いま、あらゆるものが東京に一極集中していると言われていますよね。私は東京生まれの東京育ちで、お客様もすべて東京ですから、そういう認識は全くないんです。ところが全国いろんなところで話を聞くと、皆さん「そうだ」とおっしゃるし、そういう認識で改めて東京で確認すると確かにそうなんです。
 しかしこれは日本のカントリーリスクだと思います。阪神・淡路大震災と同じレベルの天災が、東京を中心とした関東に起こらないとは限りません。阪神・淡路大震災も大阪が比較的被害が少なかったからなんとかなったんだろうと思います。大阪が神戸と同じような被害だったとしたら、復興にはもっと時間がかかっていたでしょう。
 そこで私は、東京に対してせめて大阪がもっとエネルギーを取り戻すべきではないか感じるんです。
 もともと日本の文化はすべてが西からですよ。ここで少なくとも印刷産業においては、我々の努力で東京の一極集中を避けていくために努力を傾注していく必要があるでしょう。大変ありがたいことに大阪には、大阪・関西を大事にされて、いま関西の置かれている状況をクールに認識し、「なんとかしなければならない」というエネルギーをもっている方々が大勢います。全印工連としても、ぜひ、お役に立てることは実行していきたいと考えています。
 そんな中、今年のJP展は、はじめて紙と印刷の合同展示会という形で企画されています。IGAS開催の年ではあるものの、新しい試みに対して、全印工連では全国の理事長が集まる総会を大阪、そしてJP展会期中にぶつけました。
 すくなくとも東京に対して大阪がイーブンの力をもたないとカントリーリスクは避けられません。皆さんのエネルギーに期待しております。