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トップ > 特集 > グローバル展開に商機!海外進出希望ルポ:小宮山印刷工業(株)、スリランカ - KOPAS LANKA

中国・東南アジアなど海外印刷企業の動向が注目されて久しい。日本の印刷企業においても、今や中小企業の海外進出は珍しい話ではなくなってきている。だが一方では、海外進出を果たしたものの軌道に乗らず、やむなく撤退する企業も多いと聞く。撤退時のリスクを回避するため公にしない企業の存在も考えると、海外進出に挑戦する中小企業は水面下で予想以上に進んでいることも考えられるだろう。ここでは海外進出により「品質向上」を実現した印刷会社、創業者の「夢」であった海外進出をきっかけに、製版業から印刷業への業容拡大を実現し成功を修めた2社の事例を紹介する。

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小宮山印刷工業 スリランカに「KOPAS LANKA」
欧文組版のタグ付け工程を現地へ一任 / 品質向上とコスト削減に効果

印刷ジャーナル 2006年7月25日号掲載

 小宮山印刷工業(株)(本社/東京都新宿区天神町78、電話03-3260-5211、小宮山一雄社長)の海外進出へのきっかけは、日本物理学会から欧文月刊誌を受注したことから始まった。同社は平成10年にスリランカの現地法人KOPAS LANKAを開設し、欧文組版のタグ付けの行程を現地法人に任せることで、欧文出版物の品質向上と納期短縮、人件費削減など、さまざまな面で海外の事業進出に成功している。
 
「1冊」の受注が転機に
 同社は大正10年の創業当時より、「どのような仕事でもやらせていただく」ことを信念に掲げてきた。あらゆる受注に対応するため設備強化を進めてきたことが今日の豊富な設備を築き上げる結果となり、平成元年に新築増設した宮城工場にはプリプレスから印刷、製本、加工に至るまでの一貫生産設備はもちろん、それに付随するあらゆる要望に対応する設
備とシステムが備わっている。
 「50年前は欧文に対応できる印刷会社はまだ少なく、印刷会社は非常に高い価格でそれらの仕事を受注していた。そこで当社に『安い価格でやってくれ』と頼まれたのが欧文の仕事との出会いになった。活字で組み、儲けはほとんど出なかった記憶があるが、『どんな仕事でもやらせていただく』の信念のもと、受注を引き受けた」(小宮山一雄社長)
 同社が現在、KOPAS LANKAへ依頼する仕事は、主に学術書関係のタグ付け。これらの類いは非常に高度で複雑な記号が入り交じっているため、ハイレベルな英語能力が必要である。しかも、「学者は研究内容を一刻も早く発表したいため、非常に早い納期を求められる」というから、国内の従業員でその能力をもつ人材を確保するのは容易ではない。そこで同社が考えたのが、欧文のテキスト入力を専門に行なう海外事業所を設立することだった。10年前のことである。
 
英語能力とインターネット環境を条件に選定
 国民の性質としては真面目で勤勉な人が揃っているというスリランカ。KOPAS LANKAにも非常に高度なオペレーション能力を備えた人材が揃っているようで、当初14名の採用でスタートした人員が現在は60名にまで増えているという。
​ 現地法人を設立するにあたり、同社が条件としたのは第一に英語ができる国であること、そしてインターネット環境が整っている国であることだった。さらに人件費などコスト面も考慮した結果、最終的な候補として挙がったのがベトナムとスリランカだった。だが当時、ベトナムはインターネット環境が進んでおらず、メールのやりとりはオーストラリア経由で4時間も要した。一方、スリランカは人材、インターネット環境ともに問題なかったという。スリランカに現地法人を設立した背景について、同社の小宮山恒敏副社長は次のように話している。
 「海外の現地法人に求める仕事は、欧文組版のタグ付けという1工程のみ。原稿の紛失などリスクを負うことはできないため、インターネットで原稿やデータを受け渡しできることが条件だった。その点、スリランカ最大の通信会社スリランカテレコムはNTTがバックアップしており、通信のスピードも問題なかった」
 
スリランカは「魅力的な場所」
 昨今では中国も徐々に人件費が高くなっているようだが、スリランカは依然として国内と比べ人件費が桁違いであるため、品質向上のために従業員の使い方も余裕をもってできるメリットがあるという。例えば1つの仕事に対して1人がテキスト入力を担当し、2人がチェック作業を行なうなど3人1組で仕事を行なうことで、より確実な入力が可能になる。
 「スリランカより返信されてきた原稿を最終チェックしてもほとんど問題ない。日本ではなかなかできない贅沢なスタッフの使い方ができるのは大きなメリットだと感じている。複雑な記号が入り交じったタグ付けを1000頁1週間ほどで返信してくる。3.5時間の時差を有効的に活用すれば、さらに効率的な仕事の進め方も可能になる」
 設立当初から幹部候補者を2~3週間ほど日本で研修し、その後はすべて現地スタッフに任せているという。ただし品質チェックとスケジュール管理は国内で管理し、必要に応じて日本から現地に出向き、指導を行なっている。
 小宮山恒敏副社長は、「将来的には欧文のタグ付け以外の仕事もスリランカの現地法人に任せられることがないか模索している。スリランカは我々にとって、非常に魅力的な場所である」と、スリランカを基盤にさらに海外進出を加速していく姿勢を示している。