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4月4日から11日までバーミンガム国際展示場で開催されたIPEX展の入場登録者は5万2,452人に達し、8日間の入場者累計は8万2,537人となった。来場者の四40%が海外から英国を訪れており、極めて国際性の高い展示会となった。東欧、中東、東南アジア地区からの来場者が増えたことも今回のIPEXの特徴で、各地域からそれぞれ2,000人を超える人達がIPEXを訪れた。今回はこれまでになく規模が大きく、しかも画期的な新製品が数多く発表され、歴史に残る大会となった。

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IPEX2006 report
ジーエーシティ技術アドバイザー 泉 和人

印刷ジャーナル 2006年4月掲載

INNOV8シアターで示された印刷の将来

INNOV8会場 ​ ホール10に用意された200席の「INNOV8」シアターでは、会期8日間を通して毎日、業界の指導者や専門家により印刷産業の将来を示す講演が行なわれた。このシアターのスポンサーとなったハイデルベルグ、MANローランド、ゼロックス、ヒューレットパッカード、キヤノンの五社は、いずれも今回のIPEXで最も注目されたメーカーである。
 初日はハイデルベルグのシュライヤー会長による「商業印刷の将来ビジョン」と題する基調講演やクォードテックによる自動化の最新動向の紹介が行なわれた。2日目以降も、ゼロックス、コダックなどの経営者や、欧州印刷産業連合会、ワールド・パッケージ機構などの業界団体幹部が演壇に立ち、印刷産業の現状分析や将来戦略、新しいビジネスチャンスなどに関する議論が展開された。

再び登場したプリントシティ

 ドルッパ2004の最大のイベントはプリントシティであった。MANローランドとアグフアを中心として、プリプレス、印刷、後加工、材料の40を超えるメーカーが、ホール6のすべてを使ってJDFを使った仕事の流れを実演した。昨年のPRINT展では消えてしまったこのプリントシティがIPEXで再び華やかに再登場した。
 プリントシティの中心メンバーのMANローランドは、親会社MANから独立することを会期直前に発表し、業界に衝撃を与えた。同社は投資会社アリアンツ社65%、MAN35%の出資による合弁会社となる。MANローランドはIPEX開幕前日に記者会見を開き、数年以内に株式を上場し、新しい資本を得て、企業買収を含め、さらなる発展を目指すことを宣言した。ハイデルベルグがプリプレスのヘル、加工のポーラーやシェリダンなどを次々に買収して、全工程の設備を提供する機器メーカーに変身したが、MANローランドも同じようなことを目指す可能性があり、今後の動向が注目される。
そのMANローランドを中心に、ホール1のプリントシティでは40社以上のパートナー企業がJDFを使って受注からプリプレス、印刷、後加工、発送まで通したワークフローを会場内で実演した。

数々の画期的な新製品

アニカラーの実演
インライン箔押し装置 今年のIPEXのテーマは「イノベーション」。革新を掲げた大会に相応しく、注目すべき新製品、新技術の発表が相次いだ。
 ハイデルベルグは革新的なインキングシステムとして「アニカラー」を発表した。精密な温度制御を行なうこのキーレスインキングシステムは、印刷開始の損紙を劇的に減少させ、小ロットでもオフセット印刷がデジタル印刷に対抗できるようになるという。
 また、MANローランドは二年前のドルッパで発表したダイレクト駆動枚葉機をユニット出展し、すでにこの機械が実用運転に入ったことを発表した。オフセット枚葉機のダイレクト駆動とは、準備作業時だけ版胴をクラッチで切り離し、単独モーターで駆動するというものである。全ユニット同時の版替えが可能となり、さらに版替えとブランケット洗浄を同時に行なえるため、大幅に準備時間を削減する技術として注目された。
 準備時間を短縮する注目技術が2つ発表されたが、印刷機の付加価値を高めるインラインシステムも注目された。これまでの単純な片面四色機は姿を消し、特色、蛍光色、金銀インキなどを加える多色機とインラインコーターが各社から発表された。
 両面機もドイツ3社が先行して開発した反転胴方式のものと、日本のメーカーが開発した専用型が会場で競い合った。反転方式の両面機では、両面インラインコーティングの実演も行なわれた。
 また、MANローランドはインライン箔押し装置の実演を行なった。ブランケット胴にアルミ箔のウェブを巻きつけ、接着剤を印刷してその部分の箔を印刷と同時に紙に転写するものである。さらに、ハイデルベルグもインライン箔押し装置をユニット出展した。
 その他、三菱重工はインラインのダイカット、ミシン目加工装置を菊半5色機のコーティング胴に装備し、返信ハガキを切り取るミシン目とCDを挿入するためのスリット加工を行なう実演で注目を集めた。

最先端のデジタルプレスが一堂に

キヤノン実演
​ トナー方式のデジタルプレスとインクジェット印刷機の進歩は目覚しく、IPEXでも各社が高速性を誇る最新機種を発表した。印刷品質も各社がオフセット並あるいはオフセットを超えると宣伝しており、実際会場で手にしたサンプルの品質は一昔では考えられなかったほどの進歩を見せている。
 インディゴは数年前から大きな展示会では、来場者の顔写真と名前を入れたオンデマンド印刷の実演を行ない、希望者で長い行列ができた。今回のIPEXでもヒューレットパッカードは同じようなサービスを企画したが、もはやそのようなことはできて当然というように受け止められていた。
 デジタルプレスの中では、キヤノンの新製品が注目を浴び、毎回の実演は熱気にあふれた。キヤノンのデジタルプレスへの意気込みは相当なもので、欧州各国のキヤノンの代理店がIPEX見学ツアーを企画し、多くの顧客をブースに案内していた。

ジャンボオフ輪のユニット展示

小森の版替実演 ​ オフ輪については、会期とスペースの関係から高速オフ輪の実演は見送られ、紙を通して実演したオフ輪メーカーは中国の北人集団一社にとどまった。インドのオフ輪メーカー二社もフルラインの新聞輪転機を出展した。
 IPEXはオフ輪の最新技術の場となった。MANローランドはリソマンの大型ユニットと大径ロールの給紙装置のユニットを展示し、大型化による生産性の向上を強調した。2年前にハイデルベルグのオフ輪事業を買収した米国のゴス・インターナショナルも巨大なサンデープレス4000の印刷ユニットを展示し、来場者を驚かせた。小森はシステム38の印刷ユニットを出展し、全自動刷版交換装置の実演を行なった。

デジタルプレスに対応した加工設備

 製本加工設備についても新製品の発表が相次いだ。フェラーグのドラム型超高速中綴システムではカードの貼り込み実演が行なわれた。ミューラーマルティニやコルブスも新型高速無線綴システムの実演を行なった。さらにフンケラー、デュプロ、ホリゾンの各社がデジタルプレスに接続できるフレキシブルな後加工装置の実演を行なった。
 顧客のニーズに対応し印刷後の宛名印字や封筒封入、発送などのフルフィルメントと呼ばれるサービスに業容を拡大している印刷会社が増えている。このような動きに呼応するように、メーリング、封入封緘システムについても新製品が数多く発表された。
 クレジットカードやギフトカード、さらにはRFIDタグと呼ばれるICカードの加工システムについても検査機能や加工のフレキシビリティを向上させた新製品が数多く発表された。

DI印刷機の勢力地図に大きな変化

プレステックのDI機
​ 今回はダイレクトイメージング印刷機でも大きな展開が見られた。会期直前にハイデルベルグがDI印刷機からの撤退を発表して業界に波紋を投じた。同社のクィックマスターDIはドルッパ95の目玉製品として華々しく登場したことは記憶に新しい。ハイデルベルグの成功を見て他の数社もこれに追随した。ドルッパ2000ではカラット(現在ではKBA)、リョービ、ゼロックス、アキヤマ、桜井の各社もDI印刷機を発表し、これからの印刷機の本流はDI機になると予想する専門家も多かった。
 しかし、その後CTP化が急速に進展し、刷版自動交換装置の普及も進んだ。その結果、高価な印刷機械を停止して印刷機内でイメージングするよりは、CTPシステムで精度高く製版された版を、自動刷版交換システムにより短時間で正確に取り付けた方が合理的だという考えが一般的になりDI機ブームは去ったようである。自社でCTPシステムを販売するハイデルベルグがDI機から撤退することは当然のこととも言える。
 しかし、DI機には、オフィス機器の感覚で扱えるオフセット印刷機ということで、コピーショップ、デザイン会社などで今後も一定の市場を確保するだろう。
 ハイデルベルグをはじめとしてDI機用イメージングヘッドを各社に提供していたプレステックが今回のIPEXで初めて自社ブランドのDI機を発表したことは興味深いことである。この機械はプレステックが開発し、印刷機本体部分をリョービに製造委託しているという。リョービ自身もプレステックからイメージングヘッドを採用した3404X-DI機をIPEXで実演した。
 その他、大日本スクリーンも自社開発のイメージングヘッドを採用し、安価なシルバーデジプレートを使用できるTruepres344の実演を行なった。

ホール1にはフレキシブルゾーン

フレキソビレッジ
​ オフセット枚葉機、乾燥機付オフ輪、乾燥機なしオフ輪を合わせると、オフセット印刷は世界の印刷出荷額の半分を占めている。しかし、1つのプロセスとして最大の版式はフレキソで2005年ではフレキソ印刷はオフセット枚葉機を少し抜いて、世界の印刷出荷額の20.4%を占めているという。日本では伝統的にフレキソ印刷が過少評価されており、そのような数字は信じがたいが、欧州では軟包装パッケージを中心にフレキソは大きなシェアを確保している。
 そのような事情を背景として、ホール1には「フレキシブルゾーン」が設けられ、フレキソ関連技術が数多く出展された。会場の都合で共通圧胴型の大型輪転機の出展は見送られたが、使い易くなったラベル用の小型輪転機が数機種出展された。刷版に関しては、レーザー方式のCTPシステムが数社から発表された。その他、刷版洗浄システムなど関連設備も数多く出展された。
 印刷機本体の改善と周辺装置の充実によりフレキソ印刷は以前より数段使い易いものとなっている。IPEXで発表された自動化システムとしては、版替えの自動化、印圧調整の自動化、インキチャンバーのクリーニング、インキの粘度管理などが挙げられる。

質量ともに長足の進歩を遂げた中国とインド

中国のオフ輪実演インドのオフ輪 ​ 今回のIPEXで最も目立ったのは中国である。「熱烈歓迎」と中国語で書かれた看板が会場の各所に目についた。中国の印刷産業は急速に伸びており、外貨保有高も世界2位と購買力を付けている。今や印刷機械メーカーにとって、成熟した欧米よりも中国やインドなどの新興国の方がはるかに重要な顧客となっている。
 今回のアジアからの来場者で最大は中国、次いでインド、韓国の順で、かつては国際展示会のアジアからの見学者の半分以上を占めていた日本は、今回のIPEXでは第四位以下に落ちたようであった。
 さらに驚異的であったのは、中国からの出展メーカーである。これまで、主要展示会では回を重ねるたびに中国の出展は増えてきた。しかし、今回はその延長ではなく、爆発的な伸びを示した。ホール2などは、全展示面積の半分が中国と台湾のメーカーで占められていた。中国から出展された機械の性能向上も目覚しく、欧米や日本からの技術導入により、性能の向上が図られていた。
 インドからの出展も新聞輪転機を中心に増加した。来場者の伸びも目立ち、赤いターバンを巻いたインドの団体が目に付き、熱心に商談するインドの印刷会社幹部の姿も会場の至るところで見られた。